話題のニュースを「組織均衡論」の視点で読み解く
2021年11月3日の日本経済新聞で、クラウドケアを紹介する記事が掲載されています。
クラウドケアは、フリーランスの訪問介護人材を高齢者に仲介する事業を手掛けています。記事によると、首都圏1都3県で展開するサービスが軌道に乗り始めたため、関西や九州などの主要都市に進出する方向で進んでいるそうです。
登録している介護施設での勤務経験や介護系の有資格者は数百人。利用者は、現状は年間で1,000人程度、今後は3倍を目指すとのこと。そのために、ベンチャーキャピタルの慶応イノベーション・イニシアティブなどから1億1,000万円を調達したそうです。
外出や家事の手伝いなど、生活支援サービスの依頼内容に合わせて、自動的にシステムが適切な人材をピックアップする仕組みになっていて、料金は1時間あたり3,000円ほどに抑えているとのこと。通常、他社の同様のサービスでは、5,000円~1万円/時が相場のため、利用者にとっては活用しやすい価格といえそうです。
外部環境の視点で見ると、これから益々高齢化、IT化が進むであろう日本において、同サービスは受け入れられる可能性が高いように思います。
それでは内部環境としてはどうでしょうか。今回は、内部環境でどのような点に留意すればより発展しやすくなるかを、J.マーチとH.サイモンが提唱した組織均衡論の観点で考えてみたいと思います。
組織均衡論とは、組織が成立し維持され、存続していくために必要な条件を論じた理論です。ここでいう組織均衡とは、組織のメンバーに対して、継続的な参加を動機づけるために十分な支払いを整備することに成功している状態を表します。
平たくいうと、組織メンバーにとって、その組織に参画して得られるベネフィット(誘因効用)が、その組織に費やす時間や労力、お金などのコスト(貢献効用)を上回るか、丁度よいバランスになっている状態が均衡しているということです。
単純化すれば、「誘因≧貢献」の状態が維持されている組織が、均衡を取れた組織ということになります。
そして組織均衡というには、組織の利害関係者との均衡の上に成り立ちます。この記事から読み取れる利害関係者は、以下のとおりです。
①利用者
②登録者(介護業務の経験者、有資格者)
③ベンチャーキャピタル(VC)
もちろん、組織で運用される以上、このほかにも従業員や供給業者などさまざまな利害関係者が考えられますが、今回は単純化して、上記の①②③で均衡した状態考えてみたいと思います。
まず、①利用者ですが、利用者にとって誘因効用は、「サービス」です。一方で、貢献効用は「対価」です。記事によれば対価が競合他社よりも少ないため、競合他社と同様のサービスを提供することができれば、利用者との組織均衡は保たれているといえそうです。
次に②登録者です。登録者の誘因効用は「報酬金額や業務の安定性、融通のききやすさ」であり、貢献効用は「役務の提供」です。この点は記事には言及がありませんが、①の利用者との組織の均衡を保つためには、サービス従事者の質の担保が不可欠。そして、サービス従事者の質の担保は、この登録者と組織の均衡を上手く保つ必要があるといえそうです。
最後に、③のVCとの関係では、誘因効用は「成長による企業価値の向上」であり、貢献効用が「出資額」ということになります。企業価値の向上のためには、このビジネスの場合、やはり上記のサービスの質の担保が不可欠となるでしょう。
したがって、組織均衡論の視点でこのビジネスが全国展開できるかどうかの内部要因を考えると、介護業務の経験者や有資格者の質の担保をいかに図るかがクリティカルパスになりそうです。
このように、企業の成長を考える際には、各ステークホルダーの組織均衡状態をチェックしていくとが、リトマス試験紙となるのです。しかし、当事者がこれを判断するのは主観が入り込むために、難しいといえます。
外部の専門家やコンサルタントに依頼するという選択肢も考えられます。
クラウドケアが今後、どのように全国に広がっていくかに注目したいと思います。
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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。