小売業が生き残るために必要なこと

話題のニュースを「流通論:小売業の機能」から読み解く

2021年4月18日付の日経MJ の記事に、欧米大手で進む D 2 C 戦略についての取り組みが取り上げられていました。 D 2 C とはダイレクトトゥコンシューマーの略で、メーカーが直接消費者に対してアプローチをする戦略を意味します。

欧米では、アディダスやナイキ、アンダーアーマーといった大手スポーツメーカーが D 2 C 戦略に力を入れており、結果として小売店等でそれらの商品を買いにくくなっている一部の店舗があるそうです。 記事の中では、今後 D 2 C 戦略が進展していくとされており、一方で、小売業側としては、その存在意義が問われる事態になりそうだと書かれています。

かつて、大規模リテーラーが発展し、卸売業に頼らずともメーカーと直接取引できるほどパワーを手に入れた時に、卸売業不要論と言われる考え方が示されました。大規模リテーラーが増えるにつれて、卸売業者が不要になるという考え方です。

もちろんすべての卸売業が不要になったわけではなく、いまだに活躍している卸売業はたくさん存在します。生き残りをかけた卸売業者の闘いの中で勝ち残った企業は、機能を強化しました。

いわゆるパパママストアといわれる小規模小売業に対する卸売業者の主な機能は、集荷分散機能や金融調整機能が主でした。

前者は、小規模小売業ではメーカーと大きな取引ができないものの、メーカーとしては取引先と大きなロットでの取引を望んでいるため、卸売業が間に入ることによってメーカーと大きな取引をし、小規模小売業に小さな取引で商品を供給するという機能です。

後者は、メーカーは商品の代金をすぐに支払ってもらいたいものの、小規模小売業としては資金繰りを鑑みると商品が売れるタイミングで仕入れ代金を支払いたい傾向があり、卸売業者が間に入ることでそこを調整しようとするものです。

しかし、ロット数を多く発注でき、資金力も豊富な大規模リテーラーにとって上記の2つの機能は、どちらも自前で可能となります。

そこで卸売業が強化したのが、リテールサポート機能でした。リテールサポート機能は小売業の経営をサポートしていこうとする考え方です。例えば商品の売り方を小売業にインプリケーションしたり、場合によっては小売業の売り場自体を卸売業の担当者が作ったりといったことです。

翻って、今回の記事の論旨は、まさに小売業不要論そのものであると感じました。そして、記事の中では小売業が生き残るために、購買体験の設計と提供が必要とされています。

生き残る小売業に何が必要なのでしょうか?今回は、流通論における「小売業の機能」から考えてみたいと思います。

従来の小売業の2つの機能として、販売代理機能と購買代理機能があげられます。前者は、小売業はメーカーや卸売業のかわりに、消費者に効果的に商品の良さが伝わるように販売を代理するという機能です。後者は、小売業が消費者の立場に立って、消費者が求める品揃えを計画して納品するという機能です。

ところが、現在はインターネットの進展により、メーカーや卸売業者が直接、消費者に低コストでリーチできるようになり、前者の機能の必然性が低下しています。また、消費者はインターネットでいろいろな情報を手に入れられるようになり、後者の機能の必要性も低くなっています。

そのことから、小売業不要論がいわれるようになっても不思議ではありません。これまでどおり、メーカーや卸売業が強化したい商品をわかりやすく販売したり、消費者のニーズにあった商品を品揃えするだけでは、存在価値は低下していく一方でしょう。

もちろん記事にあるように、購買体験を強化し提供できればそれに越したことはありません。しかし、生き残った卸売業の取り組みからヒントを得るならば、小売業者はまずはコンシューマーサポート機能を強化すべきではないでしょうか。

消費者が求めているものにとどまらず、気づいていないけれど、利便性や付加価値が高い商品を提供したり、その商品の使い方を提案したりといったことです。その上で、魅力的な購買経験を設計していくことが大切です。

私見にはなりますが、いかに店舗での購買体験を魅力的にしても、取り扱っている商品や、その商品の提案内容に魅力がなければ、消費者にとって一過性の訴求で終わってしまうと考えます。

継続的に魅力的な購買体験を提供するためにも、小売業経営者の方は、コンシューマーサポート機能の見直しと強化に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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