【イケア(IKEA)】SDGsを意識したサーキュラーハブは長続きするのか?

話題のニュースを「コーズリレーテッドマーケティング」から読み解く

2021年4月17日付けの日経新聞オンライン記事で、イケアSDGs戦略の一環として「サーキュラーハブ」を取り上げていました。本ブログでも以前に「サーキュラーハブ」について取り上げたことがありますが、本日は別の視点で考えてみたいと思います。

SDGs(持続可能な開発目標)は、2001年に策定されたMDGs(ミレニアム開発目標)の後継として、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能で、よりよい世界を目指すとする国際目標です。ビジネス業界を問わず、一般的なトピックスになっている感があるため、ご存知の方のほうが多いのではないでしょうか。

一方、サーキュラーハブとはIKEAの中に設置されたコーナーの名称です。サーキュラーハブが展開するスペースには、大きく3つの機能があるとのことです。

一つは、販売機能です。消費者から買い取ってメンテナンスをした商品を陳列して販売しています。記事の中でも取り上げられているように、IKEAは従来、アウトレットコーナーを設けており、新品より安く訴求をしていました。今回は、アウトレット商品も含めて陳列するのですが、そのコンセプトは大きく異なります。中古品を廃棄せずにリユースすることで循環型社会という価値を訴求することを目的としているそうです。

二つ目は、プレゼンテーション機能とのことです。コーナーの外から、買い取った家具をスタッフがメンテナンスしている様子をリアルタイムで見られるようにしています。記事によると、中古品を修理、再販売する過程を公開することで、消費者の信頼感を得る目的があるそうです。

三つ目は、ワークショップ機能です。「ラーン&シェアエリア」というコーナーで、家具を大事に使うという視点で修理やカスタマイズなどのワークショップを開催する予定とのこと。ワークショップを通した知見の共有・浸透を通して、循環型社会を実現することが狙いとのことです。

IKEAは、このサーキュラーハブの取り組みについて、2021年夏までに、日本国内8つの店舗に拡大する予定とのことです。

このSDGsに関するIKEAの取り組みは、継続的なものになるのでしょうか。

今回は、このIKEAの取り組みについて、コーズリレーテッドマーケティングの視点から考えてみたいと思います。

コーズリレーテッド・マーケティング(コーズ・マーケティング)とは、売上によって得た利益の一部を社会貢献の目的で寄付し、企業イメージの向上や売上の増加を目指すマーケティング手法です。コーズとは、人に影響を与える「大義」や「理念」を意味します。

例えば、1980年代、米アメリカンエキスプレスは、カードの新規入会金の一部を当時進められていた自由の女神像の修復工事に寄付するという施策を打ち出し、それに共感した人が多くいたことから、飛躍的に加入者が伸びたそうです。

つまり、大義や理念を掲げ、社会貢献に寄与することで、マーケティングの成果につなげていこうとするのが、コーズリレーテッド・マーケティングの根底にある考え方です。このように、社会貢献によって企業イメージを高めたり、売上を高めたりしようとする意図が働いていることについて、悪い印象を持つ人がいるかもしれません。

しかし、どのような素晴らしい社会貢献の取り組みでも、それを支える成果がなければ長続きしません。結果として、良い取り組みが短期的に終わってしまうのであれば、本当の意味で社会に貢献したことにならないのではないでしょうか。

今回のIKEAの取り組みも、その取り組みの中身もさることながら、それが収益に結びつくかどうかが本当の意味での社会貢献の分水嶺になるのではないでしょうか。

収益に結びつくか。その答えのヒントは記事の中に書かれていた、20代、30代の消費者は古くなったものでも捨てずに他の人に譲るなど、中古品に価値を感じているというIKEAの調査結果にあります。

このサーキュラーハブによって中古品に価値を感じている消費者を囲い込むことができ、その消費者がIKEAでアイテム横断的に購買してくれるのであれば、この取り組みは継続・発展していくでしょう。

もちろんIKEAは、前出のリサーチに基づくマーケティング戦略に基づいて、このSDGsの取り組みを展開しているのだと思います。つまり、コーズリレーテッドマーケティングを仕掛けたといえるでしょう。

様々な企業のSDGsに関する取り組みがクローズアップされるほどに、SDGsウォッシュについての問題も取り上げられるようになってきました。SDGsウォッシュとは、SDGsに取り組んでいるように見せて、実態が伴わず、単にパフォーマンスに終わっている取り組みを表すキーワードです。

もちろん、本質が伴わないSDGsウォッシュは論外だと思いますが、SDGsに関する取り組みをしたたかに収益に結びつける視点も重要だと思います。このIKEAのコーズリレーテッドマーケティングの視点は、多くの経営者の方の参考なるのではないでしょうか。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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