【三越伊勢丹】第1回:営業損益が大手3社で最も打撃を受けている理由を考察

話題のニュースを「経営資源の人的資源と物的資源」から読み解く

2021年4月19日の日経新聞オンラインの記事で、三越伊勢丹について付加価値額が減少していることを取り上げていました。コロナの影響で業界全体が打撃を受けるなか、三越伊勢丹ホールディングスの連結営業損益は、業界大手の高島屋やJ フロントリテイリングに比べて傷が深いことが取り上げられていました。この記事では、様々な指標からなぜ三越伊勢丹ホールディングスが最も打撃を受けているのかという点を取り上げていました。

経営指標を使って分析をしており、多くの経営者の方にとって参考になる記事ではないでしょうか。例えば、この名前の付加価値額の創出力が大手3社中一番低いという点を指摘されています。付加価値額という指標については、様々な算出方法がありますが、この記事では営業利益と減価償却費に加え、バイヤーやマーケティング人材等の人件費の合計を付加価値額とみなしています。この名前の付加価値額の創出力は大手3社中一番低くなっているとのことです。また、従業員1人当たりでどれだけ付加価値額を得たかを示す労働生産性でも高島屋を下回り、上場大手7社の平均よりも低いという結果が示されています。

特に鋭い視点だと感じたのか労働装備率の数値が停滞しているという指摘です。
設備生産性とは、有形固定資産÷従業員数で算出できます。

記事によると、労働装備率は2017年度に高島屋が三越を逆転。2019年度は高島屋の薬4,300万円に対し三越伊勢丹は約3,400万円にとどまったということです。

百貨店の有形固定資産といえば何といっても店舗。そして、小売業経営では一般的な考え方といえますが、ある程度店舗に設備投資をしていかなければ成長につながりにくいと言われています。

三越伊勢丹の付加価値額が減少していることと、営業損益が大手3社中、最も打撃を受けていることについて、バーニーの経営資源の考え方で紐解いてみたいと思います。

経営戦略を立てる時に、自社の経営資源を重視し計画を立てようというリソースベーストビュー。代表的な継承者といえばバーニーでしょう。経営資源とは、一般的に人的資源、物的資源、資金的資源、情報的資源に区別されます。

人的資源とは、戦略を構想し実行する上で企業が活用できる人材。物的資源とは、戦略を構想し実行する上で企業が活用できる物理的な資源を表します。また、資金的資源はいわゆる金銭的資源であり、情報的資源とは、企業が活用できるいわゆる知識や知見を意味します。

記事の経営指標の分析によると、百貨店の従来のビジネスモデルにおける店舗、つまり物的資源に対する投資が不足していることを指摘していることがわかります。

近年、高島屋が日本橋店をリニューアルしたのに対して三越伊勢丹は目立った店舗への投資は見られませんでした。また、直接的ではありませんが、人的資源の投資不足にも言及しています。記事では、付加価値額の計算に、あえてマーケティング人材という概念を取り入れていましたが、百貨店にとってマーケティング人材がビジネスモデルにおける鍵になることも、周知の事実と言えます。少なくとも労働生産性は業界のなかでも低水準という指摘がなされており、人的資源を有効に活用できていないという結果が表れています。

つまり、経営資源を有効に活用して経営戦略を立てて行こうとするリソースベースドビューの考え方に立てば、三越伊勢丹は業界の大手企業の中であまりうまくいっていないということが言えるのではないでしょうか。

今回は三越伊勢丹の付加価値額が減少しているという記事を見ながら、人的資源と物的資源について俯瞰してみました。

次回のブログでは、三越伊勢丹の資金的資源と情報的資源の活用について考察してみたいと思います。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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