【シュゼット・ホールディングス】コロナ禍で洋焼き菓子が売上好調な理由

話題のニュースを「ドメイン」から読み解く

2021年4月14日の日経新聞のオンライン記事によると、兵庫県西宮市の洋菓子のシュゼット・ホールディングスがシンガポールに店舗を増やすそうです。シュゼット・ホールディングスといえば、国内で百貨店などを中心に90店舗以上を「アンリ・シャルパンティエ」という焼き菓子のショップを展開しています。シュゼット・ホールディングスの蟻田社長によると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で国外への移動が制限されたため、富裕層の国内消費が増え、好調を維持しているそうです。

同記事によると、4月16日にシンガポールの有力な商業施設「ニーアンシティ」の中に、4店舗目となるアンリシャルパンティエをオープンします。さらに2022年には、シンガポール国内で計6店舗まで店舗数を増やす方針とのことです。将来的にはタイやベトナムへの進出も視野に入れています。

このブログでも何度か取り上げたように、アンゾフが提唱した製品市場マトリックスの4象限に当てはめると、既存製品を新規市場に投入する市場開発戦略に該当します。

これから成長が見込まれる東南アジアの市場拡大に加え、新型コロナウイルス感染症拡大による国外移動の減少などを変化を機会と捉え、自社のブランドイメージや定番商品(フィナンシェやマドレーヌと言ったお菓子)を活かして、成長戦略を立案していて、非常に理にかなった経営的な意思決定だと感じます。

一方で社長が述べている点。新型コロナの影響で、国内への移動が制限されることで富裕層の国内消費が増えることは分かるのですが、それがなぜ、洋焼き菓子のアンリ・シャルパンティエ の売り上げアップにつながるのでしょうか。

今回は、以前にも取り上げましたが、エイベルのドメインの考え方を使って考察してみたいと思います。

ドメインとは企業が経営環境の中で選択した自社にとって適切な企業活動の範囲や領域のことです。企業の活動領域や生存領域とも呼ばれ、企業の経営方針を考える上で、肝になる部分です。

ドメインを提唱したエイベルはドメインは3つの要素から成るとしています。

①customer(標的顧客):誰に
②function(顧客機能):何を
③technology(独自能力):どのように

この3点を決めることで、その企業の活動領域が明確になります。

ドメインを決める方法には、大きく物理的定義と機能的定義があると言われています。物理的定義とは、ドメインを製品・モノに着目して決めることです。機能的定義とは、顧客に提供する機能・コトに着目して決めることです。

2つを比べると、物理的定義よりも機能的定義の方が事業発展の可能性が高いと言われています。

例えば、自社を化粧品の販売会社と捉えると、化粧品が不調に陥ると事業の発展が疎外されますが、美と健康を提供する会社と捉えると、化粧品が不調に陥っても、美容サロンや健康食品など新たな製品を展開するきっかけが生まれます。

今回、アンリシャルパンティエのドメインを物理的定義で考えるならば、富裕層に対して洋焼き菓子を提供する企業ということになるでしょう。しかし、これではなぜ富裕層の国外移動の減少が同社の売り上げアップに繋がるのかが不透明です。

翻って、機能的定義で捉えてみてはどうでしょうか。アンリシャルパンティエは富裕層に対して、洋焼き菓子を囲んだ「団らんの場」を提供している。そう考えてみてはどうでしょう。新型コロナウイルスの影響で自宅で過ごすことが多くなった現在、今まで以上に家族の時間がフォーカスされるようになったのは周知の事実でしょう。アンリ・シャルパンティエの定番商品であるフィナンシェやマドレーヌが、家族の時間をより豊かにするツールとして機能していると考えれば、業績好調な理由といえるのではないでしょうか。

企業経営に携わる方は、このように先行きが不明瞭な時にこそ、自社のドメインを見直し、物理的定義から機能的定義に再定義してみてはいかがでしょうか。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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