【良品計画】なぜウイグル自治区産の衣料品販売を継続すると決めたのか?

話題のニュースを「VRIO分析」から読み解く

2021年4月15日付け、日経新聞のオンライン記事によると、良品計画は14日のプレスリリースで、人権侵害で揺れる新疆ウイグル自治区の「新疆綿」を使った衣料品の販売を続けることを公表したとのことです。同記事によると、当社は人権問題に関する機関投資家からの圧力が高まる一方で、ウイグル問題への発言によっては中国世論の反発を招き、不買運動などにつながるジレンマを抱えているとしています。また、中国の綿花生産量のうち8割以上がウイグル産であり、多くの企業にとって代替調達先を探すことが簡単ではないことも、今回の判断を複雑にしているとのことです。

経営においては、様々な環境情報の中から、「部分的無知の状態」で意思決定をすることが求められます。今回、良品計画の経営陣が「新疆綿」を使った衣料品の販売を継続するという意思決定をしたのも、社内外の環境情報を精査してのことでしょう。人権問題は非常に重要だと思いますし、理念経営の大切さがいわれる一方で、雇用を守るために成長しなければ企業にとって、収益悪化を避ける判断をすることも大事だといえます。

また、経営陣の真意が分からないため無責任なことは言えませんが、同社が「国際機関が発行するガイダンスに則り、独立した監査機関に調査を依頼し、サプライチェーンに重大な問題点はなかった」と述べている点は、経営的に大きなリスクをはらんでいるように思います。

現在の経営の主流は、リソース・ベースド・ビュー(Resource Based View)。特定の経営資源を活用することにより、企業が競争優位を獲得していこうとする考え方です。

「わけあって安い」というコンセプトでスタートした無印良品でしたが、1990年代後半の収益減少をきっかけに、新たな方針に転換。現在は、ホームページにも掲載されているように「”感じ良いくらしと社会” へ向けてグローバルに貢献する個店経営」をテコに発展をしているといえるでしょう。

同ホームページでも掲載されている3つのキーワード、「サスティナビリティ」「サプライチェーンの人権尊重」「環境への配慮」に代表される、地球や環境に優しいくらしを提供する企業というイメージを、製品やサービス、店舗を通して継続的に体現し育ててきたことが、現在の無印良品の発展を支えているといえます。

リソース・ベースド・ビューの代表的な理論として、バーニーが提唱したVRIO分析があげられます。VRIO分析では、経営資源を下記の4つの問いで分析します。

V=value:経済性があるが
R=rarity:希少性があるか
I=Imitability:模倣困難性があるか
O=organization:組織として活用されているか

企業の経営資源のうち、経済性に関する問い、希少性に関する問いのみだけが「Yes」の場合、その経営資源は一時的な競争優位の源泉にとどまります。一方で、それに加えて模倣困難性に関する問いに「Yes」と答えられる資源は、持続的競争優位となる強みです。

先述の無印良品が培ってきた企業イメージは、長年の努力の積み重ねによる賜物であり、他社が一朝一夕では模倣困難なもの。まさに、持続的な競争優位の源泉といえるでしょう。

今回、国際的なガイダンスに則り問題があったか否かや、記事にあるとおり成長戦略に及ぼす影響の観点も大事ですが、上記の持続的競争優位の源泉たる経営資源を棄損するリスクへの配慮も、経営上、非常に重要な論点といえます。

もちろん、環境は刻一刻と変わっていて、良品計画の意思決定も環境に応じて変化していくことでしょう。まさに、記事にあるとおり「難しいかじ取りが迫られている」状態です。このように将来の先行きが不明瞭な時期だからこそ、企業や事業の経営に携わる方は、改めて持続的競争優位の源泉となる自社や自事業の経営資源を精査してみてはいかがでしょうか。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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