話題のニュースを「経営戦略論のブルーオーシャン戦略」から読み解く
オンライン講義動画を配信するNowDo。サッカーの本田圭佑選手が代表ということでご存知の方も多いのではないでしょうか。第三者割当増資によって4.8億円を調達したということがニュースになりました。調達した資金によって開発者などの人材採用に注力するそうです。2017年設立ということもあり今回は創業初期のシード期の資金調達とのことです。
今回の NowDo の動きで、経営戦略論のブルーオーシャン戦略について考えてみたいと思います。
この動きの中で私が注目したのは、第三者割当増資を選択した点と、調達した資金を開発者の人材採用に充てるという点です。一般的な公募増資ではなく、第三者割当増資を選択した点にいくつかポイントがあるように思います。第三者割当増資の目的としてよく挙げられるのが、取引先との関係強化です。ニュースにも名前が挙がっている引き受け先である赤月やマクアケとの関係強化を狙ったものという見方ができます。
もう一つ、今回のケースで考えられるのが、公募増資では調達が難しい場合です。株式を発行して増資をするということは、株主にその会社のビジネスモデルに期待してもらうことと言えるでしょう。今回は、創業初期ということで、調達額に対して一般的な投資家の期待がそこまで集まらないと考えた可能性もあります。また、調達した資金を開発者の採用に充てるという点も、戦略的意思決定として重要でしょう。設備などへの投資と比べて、人材への投資は恒常的に固定費を高めるものと言えます。
開発者という点からビジネスを拡大するために、新たに社内でシステムを作ることができる施策を考えていることでしょう。つまり、その新たなシステム構築のノウハウを恒常的に保つことによって、創業期から成長期へと一気にビジネスを拡大して行こうという意思決定のように思えます。
そう仮定した時に、NowDo の取り組みはうまくいくのでしょうか。
ポイントは、「ブルーオーシャン戦略」ではないかと思います。ブルーオーシャン戦略は、キム先生が提唱した概念で、競争相手が多いレッドオーシャンの市場ではなく競争相手がいないブルーオーシャンの市場を切り開くべきとするものです。ブルーオーシャン市場を切り開くことで、飛躍的にビジネスを大きくすることができます。今回調達した資金を、人材採用に充てるという点からビジネスを拡大するという方向性に対して、後戻りしにくいと思います。つまり、分水嶺と見ることができるのではないでしょうか。
ブルーオーシャン戦略の最大のポイントは、バリューイノベーションを起こせるかどうかです。競争相手がいないということは、当然その市場でビジネスを行うためには何らかの障害があることが予測されます。それもイノベーションを起こすことによって、乗り越えられるかが、ブルーオーシャン戦略成否の鍵と言えます。
例えば、よく事例で使われる10分1000円ヘアカットの店舗では、システムユニットやエアウォッシャーなどの仕組みを構築し、美容師が一人でヘアカットだけに専念できる環境をつくるというバリューイノベーションに成功しました。
客観的に Now Do のホームページやニュース記事を見ただけですが、確かに各分野の専門家による動画サービスという点では新しいと言えますが、10代より学習塾や資格専門学校は教育のための動画配信を行っていますし、学習塾が大人の教育に進出している例も見られます。今後力を入れていくと記事で書かれているサークル活動についても、様々な企業がありますし、何よりも YouTube が最大のライバルになるのではないでしょうか。
その点から、既存のビジネスの延長ではブルーオーシャン戦略をとることは難しいように思います。これから Now Do がどのようなバリューイノベーションを実現するか注目したいと思います。
ひとつのヒントになりそうなのが、今回の第三者割当引き受けの引き受け先との連携強化でしょう。例えば、クラウドファンディングのマクアケと組む事によって、会員が好きなことで起業をするスキームを、ワンストップで提供するなどのサービスがあれば、曲面が変わってくるかもしれません。
あくまでも私の仮説に過ぎませんが、少なくとも人が学ぶ場を創出し、それぞれの人が生き生きと生活できる未来を創っていこうとするなどの考え方には非常に共感できます。是非飛躍を期待したいと思います。
岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。