【ドン・キホーテ】ランニングシューズ「ファールラン」がヒットした理由

話題のニュースを「バリューエンジニアリング(VE)」で読み解く

2021年4月3日付けの日経クロストレンドの記事に、ドン・キホーテが発売した高機能スニーカーが好調であることが書かれていました。ドン・キホーテのプライベートブランドであるアクティブギア。同ブランドのランニングシューズ、「Foul Run(ファールラン)」の売れ行きが、2021年2月19日発売以来好調とのこと。

好調の要因の一つとして機能があげられます。靴底の厚さが52 mm と通常のランニングシューズよりも底上げし、クッション性が付与されています。それでいて重量は27 cmの 片足分で約230グラムと、通常のランニングシューズより少し重い程度に留められています。近年マラソンや駅伝でも注目されているカーボンプレートも導入しているそうです。

記事によると、ドン・キホーテの既存のスニーカーの価格帯は1,000円から5,000円。一方で、ファールランは税込8,789円と挑戦的な価格になっています。いくら高機能とはいえ、低価格販売をコンセプトにしているドン・キホーテで異例と言っていいほど高い価格設定といえます。なぜこの製品はヒットしているのでしょうか。

今回は、この製品を「バリューエンジニアリング(VE)」の観点で分析してみたいと思います。

日本バリューエンジニアリング協会によると、バリューエンジニアリングとは製品やサービスの価値を、それが果たすべき機能とそのためにかけるコストとの関係で把握し、システム化された手順によって、価値の向上を図る手法と定義されています。元々は、1947年にアメリカ GE 社のマイルズ氏によって開発された手法で、当初は資材調達品の価値を改善することがメインで使われていましたが、近年では製品開発や製品設計に適用されることが多くなっています。

バリューエンジニアリングのポイントは以下の概念式にあります。

●V (Value:価値) = F (Function:機能) ÷ C (Cost:原価)

この概念式を基に価値を高めるべく、新製品のアイデアを発想します。価値を向上させるための原価と機能の組み合わせは、4種類あります。

●原価を下げて機能を一定にする
●原価を下げて機能を上げる
●原価を上げてそれ以上に機能を上げる
●原価を一定にして機能を上げる

今回のファールランは、原価を上げてそれ以上に機能を上げることに成功しています。靴底の52 mm という厚さは、世界陸連が定めた40mm以下という基準から外れるため大手メーカーではほとんど見られないそうです。しかし、ベテランランナーにとって規格外でもサブシューズとしての位置付けや足の負担軽減の練習用シューズとして、重宝する存在のようです。単に機能を高めると言っても、顧客ニーズに沿っていなければ意味がありません。この点、ファールランは顧客ニーズに沿った機能向上に成功しました。

原価も高まったため、通常のラインナップと比べて商品単価も上昇しましたが、それ以上の高機能を実現したことで、商品の価値を高めることに成功した好例と言えるでしょう。小売業のプライベートブランドは、ナショナルブランドに比べてヒット商品が生まれにくいと言われていますが、このようにバリューエンジニアリング的な観点から、製品開発を進めれば、より消費者にとって価値のある製品を生み出すことができるのではないでしょうか。

ドン・キホーテが繰り出す更なる PB 商品に注目をしていきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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