【スシロー&丸亀製麺】海外展開を検討。勝算はあるのか?

話題のニュースを「戦略論の成長戦略」から読み解く

2021年4月1日付けの日経新聞オンラインの記事で、スシローを展開するフードアンドライフカンパニーズと、丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスが海外展開を視野に入れていることが注目されていました。外食チェーンの主戦場である日本は、人口減少が鮮明になり、市場全体の拡大は難しそうです。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて大きなダメージを負いました。記事の中でも、串カツ田中ホールディングスの経営者のコメントとして、ワクチン接種が広がっても10〜20%の需要は戻らないという推測も出ています。

同社長は長期的な戦略の構築の必要性を訴えています。このような文脈で取り上げられていたのが冒頭であげたスシローや丸亀製麺の海外展開への動きです。果たして、2社の海外展開は上手くいくのでしょうか。

フード&ライフの水留社長は、世界中をまわってもワンコインで美味しくランチが食べられるのは日本ぐらい。もちろん現地では価格が上昇しますが、それを最低限に抑えることができれば可能性があるという風に述べています。確かに「日本の持つイメージ」、「和食の世界的な広がり」、「日本市場の中で鍛え上げられてきたコストパフォーマンス力」などを考えると、十分に勝算があるように思います。

それを前提として、この2社の海外展開について、戦略論の成長戦略の視点で考えてみたいと思います。

経営戦略の中でも様々な領域があり、成長戦略は、文字通り企業が成長していくためにどのような方向性をとるのかという戦略になります。経営戦略の本質は、環境変化への適応と最適な資源配分と言われています。元々、経営戦略論が体系化された当初よりそのメインテーマは企業の多角化に置かれてきました。因みに、企業の多角化を考える時に参考となる代表的なフレームワークといえば、「アンゾフの成長ベクトル」でしょう。

別名「製品市場マトリクス」と言われるように、製品が既存なのか新規なのか、市場が既存なのか新規なのかの四つの象限で、企業の成長の方向性を整理していくという考え方です。

●市場浸透:既存の製品を、既存の市場に展開する方向性
●市場開拓:既存の製品を、新規の市場に展開する方向性
●製品開発:新規の製品を、既存の市場に展開する方向性
●多角化:どちらも新規の場合の方向性

上記のように整理しています。
今回の2社の動きは、まさに「市場開拓」に該当します。このように将来を見据えながら成長ベクトルで整理していくと環境変化に適応しやすくなります。しかし、これだけでは絵に描いた餅になりかねません。ポイントは、もうひとつの経営戦略の本質である最適な資源配分です。この点については、ボストンコンサルティンググループが開発した「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」が有名です。

●縦軸を市場成長率の高低
●横軸を相対的マーケットシェアの高低

上記で表した、やはり4象限のマトリクスがベースになっています。相対的マーケットシェアとは、その業界のトップ企業に対する自社の売上の割合と言われています。

●花形:市場成長率が高く、相対的マーケットシェアも高い製品
●金のなる木:市場成長率が低く、相対的マーケットシェアが高い製品
●問題児:市場成長率が高く相対的マーケットシェアが低い製品
●負け犬:両方とも低い製品

上記のように位置付け、キャッシュフローの流れを検討するためのフレームワークです。

ボストンコンサルティンググループの提唱している考え方では、企業は「金のなる木」があるうちに、新たな「問題児」にキャッシュを投入していくことが重要とされています。「金のなる木」とは、市場成長率が低いため新規参入がなく競合との争いにコストがかかりにくいけれども、市場でのシェアは多く持っているため、一定以上の売り上げが見込める状態です。売上に対して、それほどコストがかからないので利益が大きくなると言われています。

「問題児」とは、逆に相対的マーケットシェアが低いため、売上は上がりませんが、市場成長率が高いため、やり方次第では今後飛躍的に売り上げが伸びる可能性がある状態です。「問題児」は売上に対して、宣伝広告などのコストが多くかかるため、利益がマイナスになると言われています。

今回取り上げている2社の「金のなる木」は、日本におけるスシローの店舗であり丸亀製麺の店舗です。一方で、海外市場は特にアジアを中心に成長率が高くなることが見込まれるものの、新規参入時には2社とも高いシェアを持っていない状態。つまり「問題児」に該当します。ダメージを受けつつも、日本市場での収益に余裕があるうちに、問題児に資金を投入していくという点で、今回の2社 の取り組みは理にかなっていると言えます。

ポイントは、市場成長率が高い海外で、いかにシェアを拡大して「花形」に持っていくか。その手法や方法論についてはすでに計画されているでしょうし、状況に応じて様々な工夫が必要になってくるでしょう。現時点で少なくとも言えることは、一朝一夕で「問題児」を「花形」にすることはできないということ。「問題児」の状態が長引けば長引くほど、キャッシュは流出してしまうということです。つまり、海外展開を見据えるならば、進出した後に「花形」に持って行くまでの時間的な余裕と、資金的な余裕をいかに確保できているかが重要になります。そして、それはそのまま、この2社の海外進出がうまくいくかどうかの大前提になっていると言えます。

どちらにしろ、環境が激しく動いている時に単に静観するのではなく、長期的な視点から成長戦略を描く経営者の姿勢は、様々な企業にとって参考になるのではないでしょうか。2社の今後の取り組みに注目したいと思います。


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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