【百貨店】不振から脱却する方法

百貨店が不振にあえいでいます。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD145U90U3A210C2000000/

百貨店の苦境については、2023年2月19日の日本経済新聞記事「渋谷から消える百貨店 失った「攻め」の魅力」で詳しく書かれています。

同記事で、「市場が細る中、多くの企業や店舗が「選択と集中」「チェーン化」など横並びの経営効率化に終始し、創造性やアート力など百貨店の本来の価値を創出できなかった」と分析しているが、その通りでしょう。

ここからは、もう一つの要因として「売場のあり方が変わったこと」があげられるのではないか、筆者の私見になりますが考えてみます。

マーケティングの考え方に、Integrated Marketing Communication(統合型マーケティング・コミュニケーション)があります。

●統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC:インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション)とは、企業が多数のコミュニケーション・チャネルを慎重に統合・調整し、自社とその製品に関するメッセージに明快さ、一貫性、説得力を与えようとする考え方である。近年、新しいマーケティング・ミックスの考え方として、ミックス(混合化)から、さらに一歩進めたインテグレーション(融合化)への動きがある。

ー出典:『中小企業診断士 速修テキスト〈3〉企業経営理論〈2023年版〉 (TBC中小企業診断士試験シリーズ) 』岩瀬敦智他著、早稲田出版ー

小売業にとって売場は、主要なプロモーションの手段です。かつてはミックス(混合化)、つまり売場を上手に組み合わせながら、魅力を高めるスタイルでした。一方で、現在はインテグレーション(融合化)、企業側がメッセージを明示しそれに基づいて売場を構築することで、その企業の提供価値を消費者に明確に伝えるのが主流です。

百貨店は、「百貨」というだけあって様々なテナントが集まっており従来のビジネスモデルは前者のミックス型だといえます。ところが、現在は「ファストファッション」の代名詞となったユニクロ擁するファーストリテリング、「激安の殿堂」でおなじみのドン・キホーテ擁するパン・パシフィック・インターナショナルHD、「お、ねだん以上。」ニトリなど、分かりやすいメッセージが伝わっている小売業が売上ランキング上位に位置します。これらの企業は、インテグレーション型といえるでしょう。

もちろんテナント誘致型のビジネスなのか、製造小売型のビジネスなのか、ビジネススキームの違いがあるものの、マーケティング研究のトレンドである「ミックスからインテグレーションへ」という流れは現実の小売業界でも起きているように思えます。

ずいぶん前にはなりますが、百貨店が輝きを放った事例として、2003年の新宿伊勢丹メンズ館のリモデルオープンがあげられます。それまでは独自色のあるテナントをカテゴライズして各階に割り当てるというフロアマネジメントをしてきた百貨店において、メンズ館は百貨店側が統一のコンセプトを体現する館全体の売場デザインを示し、各テナントが独自色よりもメンズ館が示したコンセプトを優先して売場づくりをおこなった大胆なリモデルで、話題になりました。

もともと「ファッションの伊勢丹」という百貨店の中では特筆すべき、強いメッセージがあったこと。そして、伊勢丹が明確にコンセプトを提示し、本来であれば独自色を出したい個性的なブランド群の協力を得たことが、成功要因の一つといえそうです。

そしてこれは見方を変えれば、それまでミックス型のビジネスモデルだった百貨店が、統合型マーケティング・コミュニケーションへと舵を切り、自らが強烈なメッセージやイメージを打ち出した先行事例といえるのではないでしょうか。

百貨店に限らず、イメージ強化、売上強化の戦略を検討する小売業は、この統合型マーケティング・コミュニケーションを下地にすると打開策が見つかるかもしれません。今後、いずれかの百貨店から強烈なメッセージが発信されることがあれば、百貨店の反転攻勢の狼煙かもしれません。その狼煙を楽しみにしたいと思います。