【カラリア】香水の定期便が好調な理由。サービスの開発過程にヒントあり

フレグランスのサブスクリプションサービス「カラリア」が好調とのことです。

詳しく知りたい方は、2023年1月30日のWWDのインタビュー記事「会員数約50万人の香水サブスク「カラリア」 独自のデータで顧客とブランドの架け橋に」がお勧めです。

カラリアを運営するHigh Link(ハイリンク)の南木CEOと岡本COOに対するインタビューで、カラリアのサブスクリプションサービスである「カラリア香りの定期便」や「香水診断」「コンシェルジュサービス」が立ち上がった背景、特にどのようなロジックに基づいてこのビジネスを生み出されたかが整理されていて読み応えがあります。

筆者が注目したのは、本記事の中の「五感の一つである嗅覚は、感情や本能にも直接関わる人間にとって重要な感覚でありながら購買体験がアップデートされていない。そこでフレグランスの購買行動データの蓄積と学習を活用したサービスにニーズと勝ち筋があると考え「香りの定期便」を立ち上げました。」という南木CEOのコメントです。

南木CEOはさらりとコメントしていますが、新規事業開拓の支援をしているとこの勝ち筋を見つけることが至難の業であることがわかります。

情報収集努力の積み重ねによる有機的に組み合わさった情報源、大胆に仮説を立てる論理構成力など様々な活動、創意工夫の賜物であることは間違いありませんが、本コラムでは、カラリアのビジネスをイノベーション創造の視点から読み解いてみたいと思います。

イノベーションとは、「技術革新」だけにとどまらず、販路開拓や新組織導入なども含んだ広い意味で「革新」を指す概念です。
シュンペーターは、イノベーションのことを、「既成の概念を覆すような新規の技術や材料、生産手段、産業や組織の再編等によってもたらされる革新」と定義しています。
その上で、シュンペーターによるとイノベーションは「新結合」によって生み出されるとされています。つまり、ゼロから新しいことが生み出されることは少なく、あくまでも既存の発想が組み合わさることによって生み出されるという考え方です。

シュンペーターは、新結合の遂行として以下の5つの項目をあげています。
 ①新しい財貨(製品)の開発
 ②新しい生産方法の導入
 ③新しい販売先(新市場)の開拓
 ④新しい仕入先(供給源)の獲得
 ⑤新しい産業組織の実現

筆者が新規事業開発のコンセルテーションをする際には、この5つの項目をベースに問いかけを行います。
①新しい商品・サービスを開発できないか
②新しい生産方法を導入できないか
③新しい市場を開拓できないか
④新しい仕入先と協力できないか
⑤新しい組織形態を実現できないか

そこからの発想を呼水として新しいビジネスを検討すると、発想の幅が広がりやすくなります。

今回のカラリアのサービスは新結合そのもののように思えます。

フレグランスという商品そのものは既存のものですが、そこにサブスクリプションという新しいサービスを導入することで、「香りの定期便」という今までにないビジネス開発に成功しました。

また、顧客が自らの好みやおすすめのフレグランスを知ることが「香水診断」、公式lineでアドバイザーによる提案を受けられる「コンシェルジュサービス」は、サブスクリプションでは選びにくいフレグランスを選択することを可能にしています。これは、サブスクリプションというサービスに対して、新しい生産方法の導入といえるのではないでしょうか。結果的に、記事によるとサブスク利用者の約3割が人生で初めてフレグランスを購入しているとのことで、まさに新しい市場を開拓できています。フレグランスのブランドとのコラボレーションによって生み出されたサービスであることを鑑みると、新しい仕入先との強力な協力関係が見えてきます。

このように、イノベーションの新結合を成し遂げているサービスだからこそ、ベンチャーとしてスタートしてたった5年間で約50万人の会員数を獲得するまで成長できたのだと思います。

流通マーケティングの領域では、顧客に対して常に新しいサービスを提供し鮮度を高める必要があります。その発想の切り口の一つとして、イノベーションの5項目を活用することが考えられます。

少しでも自社の流通マーケティングのプランニングの参考にしていただけると幸いです。


百貨店が不振にあえいでいます。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD145U90U3A210C2000000/

百貨店の苦境については、2023年2月19日の日本経済新聞記事「渋谷から消える百貨店 失った「攻め」の魅力」で詳しく書かれています。

同記事で、「市場が細る中、多くの企業や店舗が「選択と集中」「チェーン化」など横並びの経営効率化に終始し、創造性やアート力など百貨店の本来の価値を創出できなかった」と分析しているが、その通りでしょう。

ここからは、もう一つの要因として「売場のあり方が変わったこと」があげられるのではないか、筆者の私見になりますが考えてみます。

マーケティングの考え方に、Integrated Marketing Communication(統合型マーケティング・コミュニケーション)があります。

●統合型マーケティング・コミュニケーション(IMC:インテグレーテッド・マーケティング・コミュニケーション)とは、企業が多数のコミュニケーション・チャネルを慎重に統合・調整し、自社とその製品に関するメッセージに明快さ、一貫性、説得力を与えようとする考え方である。近年、新しいマーケティング・ミックスの考え方として、ミックス(混合化)から、さらに一歩進めたインテグレーション(融合化)への動きがある。
ー出典:『中小企業診断士 速修テキスト〈3〉企業経営理論〈2023年版〉 (TBC中小企業診断士試験シリーズ) 』岩瀬敦智他著、早稲田出版ー

小売業にとって売場は、主要なプロモーションの手段です。かつてはミックス(混合化)、つまり売場を上手に組み合わせながら、魅力を高めるスタイルでした。一方で、現在はインテグレーション(融合化)、企業側がメッセージを明示しそれに基づいて売場を構築することで、その企業の提供価値を消費者に明確に伝えるのが主流です。

百貨店は、「百貨」というだけあって様々なテナントが集まっており従来のビジネスモデルは前者のミックス型だといえます。ところが、現在は「ファストファッション」の代名詞となったユニクロ擁するファーストリテリング、「激安の殿堂」でおなじみのドン・キホーテ擁するパン・パシフィック・インターナショナルHD、「お、ねんだん以上。」ニトリなど、分かりやすいメッセージが伝わっている小売業が売上ランキング上位に位置します。これらの企業は、インテグレーション型といえるでしょう。

もちろんテナント誘致型のビジネスなのか、製造小売型のビジネスなのか、ビジネススキームの違いがあるものの、マーケティング研究のトレンドである「ミックスからインテグレーションへ」という流れは現実の小売業界でも起きているように思えます。

ずいぶん前にはなりますが、百貨店が輝きを放った事例として、2003年の新宿伊勢丹メンズ館がリモデルオープンがあげられます。それまでは独自色のあるテナントをカテゴライズして各階に割り当てるというフロアマネジメントをしてきた百貨店において、メンズ館は百貨店側が統一のコンセプトを体現する館全体の売場デザインを示し、各テナントが独自色よりもメンズ館が示したコンセプトを優先して売場づくりをおこなった大胆なリモデルで、話題になりました。

もともと「ファッションの伊勢丹」という百貨店の中では特筆すべき、強いメッセージがあったこと。そして、伊勢丹が明確にコンセプトを提示し、本来であれば独自色を出したい個性的なブランド群の協力を得たことが、成功要因の一つといえそうです。

そしてこれは見方を変えれば、それまでミックス型のビジネスモデルだった百貨店が、統合型マーケティング・コミュニケーションへと舵を切り、自らが強烈なメッセージやイメージを打ち出した先行事例といえるのではないでしょうか。

百貨店に限らず、イメージ強化、売上強化の戦略を検討する小売業は、この統合型マーケティング・コミュニケーションを下地にすると打開策が見つかるかもしれません。今後、いずれかの百貨店から強烈なメッセージが発信されることがあれば、百貨店の反転攻勢の狼煙かもしれません。その狼煙を楽しみにしたいと思います。