話題のニュースを「経験価値マーケティング」から読み解く
2021年5月17日付け、日本経産業新聞で、サンシャインシティの新たな取り組みが紹介されていました。 サンシャインシティといえば東京の池袋駅東口に位置する商業施設として全国的に有名です。サンシャイン60を中心として一世を風靡した同施設は、現在東京にある商業施設の中でもファミリーを対象にショッピングセンターとして、「モノ消費」だけではなく「コト消費」を提供した先駆け的な存在と言えるのではないでしょうか。
サンシャイン60の展望台やプラネタリウム、水族館などを展開しているのが特徴です。地方からのお客様も多数来館する施設の筆頭に数えられるでしょう。記事にもあるように、新型コロナウイルス感染症拡大によってそのような状況は大きく変わりました。インバウンド需要がなくなり地方からの来館者もいる中、サンシャインシティで、仮想現実を使ったアプリを配信し始めた、というのが今回の記事の内容です。
具体的には、仮想現実を活用することで来館しなくてもサンシャインシティの臨場感を味わえるというものです。例えば VR 動画や CG を駆使しイベントを開催します。 サンシャインシティに足を運ばずとも、消費者はあたかもサンシャインシティに行って、そのイベントに参加している感覚で体験や購買ができるというものです。
サンシャインシティのこの取り組みがこれから広がっていくかは予断を許さないところですが、現在、記事によると現時点で約7千人が登録しているそうです。
今回の取り組みが広がるかどうかを含めて、その成功の鍵をH.シュミットが提唱した「経験価値マーケティング」の視点から読み解いてみたいと思います。
経験価値マーケティングとは、製品やサービスそのものではなく、付随する経験をマーケティングの対象としてデザインすることに主眼を置いています。製品やサービスをユニークで興味深い経験と結びつけることで、消費者に価値を提供しようとする考え方です。
製品やサービスは消費者にとって自分の外に存在するものであるのに対し、経験は消費者個人の内側に存在するものです。その消費者の内なる経験をデザインすることで、企業や製品などのブランド・ロイヤルティを高めようとする概念です。
さて、サンシャインシティは、まさに商業施設における「コト消費」の旗手の一人として、リアルの世界で経験をデザインしてきたといえます。サンシャインシティを訪れる人々は、単に買い物を楽しんだという経験だけではなく、家族みんなで遊んで楽しかった、東京での思い出が出来た、プラネタリウムで星の世界に没入し非日常体験をした、など自らの内なる経験を構築することで、満足感を得ているといえるのではないでしょうか。
翻って、今回の仮想現実によるイベント開催においても、単に仮想現実で施設を体験できる、買い物ができるでは、サンシャインシティの魅力を伝え、仮想現実への登録者を増やすことにつながらないでしょう。
あくまでも主観ですが、仮想現実においてもサンシャインシティの強みである経験価値マーケティングをどれだけ実践できるかが成功の鍵といえるのではないでしょうか。
事実、記事によるとコンベンション事業部の冨家七海さんが示された意図として、「施設の内容をそのまま載せてもリアルの臨場感には及ばない。ネット配信の良さを生かそう」という趣旨が述べられています。
例えば、記事の中で仮想現実の既存の取り組みとして、声優を使ってインコのキャラクターがしゃべる。水族館エリアの魚に触れると特徴や情報が読める。という工夫が紹介されていました。
これらの工夫は消費者のどのような経験価値を生み出すでしょうか。
記事の中の担当者によると、親子の顧客が学ぶきっかけになっているとみています。単にその空間を訪れる、買い物をするだけではなく親子で一緒に楽しみながら学んだという経験がデザインされていることがわかります。
経験価値マーケティングが提唱されて久しいですが、コロナによって外出が当たり前ではなくなってきている今、リアル店舗に求められる大切な要素と言えるのかもしれません。
サンシャインシティの取り組みを応援したいと思います。
岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。