【ソニー】プレイステーションが売れ続ける理由を考察

話題のニュースを「ニーズとウォンツ」で読み解く

2021年5月16日付けの日経産業新聞に、興味深い記事が掲載されていました。タイトルは「ソニーG、PS5で描くゲーム戦略 「ハードは手段」」。ソニーの PlayStation 開発に携わるSIEの西野秀明シニアバイスプレジデントのインタビュー記事です。

ソニーは最近 PlayStation 5を発売し好調です。

PlayStation といえば2000年前後にはゲーム機設置型ゲーム機業界で他を圧倒するほどトップを走っていました。その後 Nintendo DS や Nintendo Wii などによって任天堂が巻き返しを図ったことは有名です。

PlayStationは脈々とその系譜を保ってきました。

なぜ、プレイステーションはこれほど息の長いゲーム機になっているのか。このインタビュー記事から読み解いてみたいと思います。

今回、それを考えるにあたってマーケティングの基本的な概念であるニーズとウォンツの概念で見ていきたいと思います。

以前にもこのブログで取り上げたことがあるように、ニーズとウォンツはビジネスの現場ではほぼ同じ意味で使われることが多いですが、マーケティング上は明確に定義が違います。

ニーズが本質的であり、目的となる欲求なのに対して、ウォンツは表層的であり手段な欲求と言われています。 例えば化粧品が欲しいというのが、ニーズに当たるのかウォンツにあたるのか議論が分かれるところです。消費者が化粧品などの商品を購入するのははあくまでも何かの目的を達成するための手段です。本質的な欲求は人によって異なりますが、この場合は若々しくいたいや清潔感を保ちたいなどがあてはまるでしょう。

企業が商品を開発する時に、ニーズを考えようとせず、ウォンツのみに注目してしまうと、マーケティングマイオピア(マーケティング近視眼)になり、ビジネスにおけるリスクになるといわれています。

マーケティングマイオピアを唱えたT.レビットは、1900年代前半に全盛だったアメリカの鉄道会社がその後、衰退したのはマーケテイングマイオピアに陥ったからだと述べています。消費者にとって鉄道はあくまでも手段であり、目的は便利な移動手段がほしいであることに目を向けなかったことが、衰退の要因と指摘しています。もし、目的に目を向けていたならば、例えば自動車会社に出資をするなど、戦略上、別の対策が打てた可能性があります。

企業がビジネスの寿命を伸ばすための大きな要因として、消費者にとって商品やサービスはあくまでも手段であり、その手段によって達成したい目的がある、つまりウォンツではなくニーズに目を向けることが大切といえます。

さて、今回の記事のタイトルにもあるように、西野氏はハードは手段と言い切っています。つまり、ゲーム機自体はあくまでもウォンツであり、その手段を通して消費者のどのようなニーズを満たすのかが重要。そう考えて、開発に取り組んでいることを如実に表しているといっていいでしょう。

西野氏によると、PlayStation5は、PlayStation4からの流れで「没入感」を高めることをコンセプトとしているとのこと。アカデミシャンの領域では、例えば本を読んで主人公に自分を重ねて同一化し、物語の世界にのめりこむことを没入と表現したりすることがあるようです。つまり、ゲームの世界にどれだけのめりこむか。つまり、ゲームをする人が自分のいる世界とは違う世界を体験できること。その質を高めることに重きをおいているといえるでしょう。

ゲーム機をウォンツとするならば、日常とは違う世界での体験がニーズといえるのではないでしょうか。

インタビューによると、PlayStationは常にこの「没入感」に該当するコンセプトを変えていることが分かります。マーケティングの大家、嶋口充輝先生は、以前、講演で「コンセプト=顧客ニーズ」と捉える考え方があると示されていました。まさに、PlayStationは、コンセプト=顧客ニーズを時代に合わせて変化させている。

常に、自らが提供するゲーム機自体は手段であり、時代に合わせて消費者の本質的な欲求であるニーズを提供することに真摯に向き合っていることが、ここまでPlayStationが長寿になっている要因といえるのではないでしょうか。

このインタビュー記事は、多くの経営者、マーケッターにとって、大切な示唆を与えてくれるものだと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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