【出前館】市場成長期に苦戦している理由を考察

話題のニュースを「VRIO分析」で読み解く

出前館が苦戦しているとの記事が出ていました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、巣ごもり需要が増えたため、外食宅配市場は伸びています。成長期を迎えているといってもいいでしょう。 実際に出前館でも売上が3倍に伸びました。一方で、更なる拡大に向けて投資が進んだ結果、投資に見合った収益があげられず、今期は最終的に96億円の赤字になりそうだと記事に書かれています。

市場が成長している時には、ライバルとなる新規参入業者が多数出てきます。 出前館は日本における外食宅配事業の先発組と言っていいでしょう。しかし、現在はウーバーイーツをはじめとするライバル事業者が増え、競争環境は激化しているといえます。

出前館が、ただ手をこまねいているのかと言うとそうではありません。例えば ダウンタウンの浜田雅功さんを起用したテレビコマーシャルは、バラエティ番組でもたびたび話題になるなど、出前館の認知度を高めることに成功しているように見えます。

実際に売り上げが伸びたことからも、マーケティンク策が一定の効果をもたらしていることが伺えます。

他方、配達業務の委託費などの売上原価。新規顧客獲得に向けた広告宣伝費や人件費など販管費がいずれも4倍に膨らんだそうです。ただし、先ほども述べたとおり、現状を外食宅配事業の成長期と捉えるならば、ライバル社に負けないように積極的に投資するのはセオリー通りといえます。

それではなぜ、出前館は売り上げが伸び、市場成長期のセオリーに則り投資をしているにも関わらず赤字になってしまっているのでしょうか。

その答えを、VRIO分析で考察してみたいと思います。VRIO 分析は経営戦略論の研究者として著名なバーニーが提唱した経営資源の分析手法です。

具体的には、自社の経営資源の中でより本質的な強みが何かを考える理論です。

手順としては、目ぼしい経営資源について、4つの問いを投げかけ分析します。

4つの問いに対して、高い評価ができるかを、客観的に分析することによって、より活用すべき経営資源を見出します。

4つの問いとは、
①経済性に関する問い(Value)
②希少性に関する問い(Rarity)
③模倣困難性に関する問い(Imitability)
④組織に関する問い(Organization) です。

それぞれの頭文字を取ってVRIOです。

経済性に関する問いとは、自社が保有する経営資源が経済的に価値があるか。平たく言うと売上に繋がる強みかどうかです。

希少性に関する問いとは、文字通り他社にない希少な経営資源かどうかです。

模倣困難性に関する問いとは、真似されにくいかどうかです。

組織に関する問いとは、経営資源が組織的に活用されているかどうかです。

これらの問いに対して、高いレベルでイエスと言える経営資源ほど有効活用すべきというのがVRIO分析の基本的な考え方です。

この問については、よく段階的に説明されます。

第1段階:経済性に関する問い → NO(※1)

(※1)そもそも強みとならない経営資源

第2段階:経済性に関する問い → YES
希少性に関する問い → NO(※2)

(※2)あくまでも競争均衡を保つに過ぎない経営資源

第3段階:経済性に関する問い → YES
希少性に関する問い → YES
模倣困難性に関する問い → NO(※3)

(※3)一時的な競争優位の源泉に留まる経営資源

第4段階:経済性に関する問い → YES
希少性に関する問い → YES
模倣困難性に関する問い → YES(※4)

(※4)持続的な競争優位の源泉になる経営資源

組織に関する問いがYESならば、持続的な競争優位の源泉が組織的に活用されている状態です。

そして、新規市場の先発事業者にとって、持続的競争優位を築くことが新規参入事業者への参入障壁になると言われ、重要視されています。例えば、スマホ市場を作り出したappleは、タッチパネルの特許や、圧倒的なアプリの質と量、ジョブズが繰り出す新しいアイデアなど、まさに他社が模倣困難な経営資源。つまり、持続的な競争優位の源泉となる強みを有効活用し、長らく先発優位性を維持したといえるでしょう。

出前館は、宅配市場において先発優位を持っていました。注目すべきは、持続的な競争優位の源泉たる経営資源を生み出したか。そして、それを有効活用したかどうかです。

あくまでも結果論ですが、現状だけを見るとその部分が弱かったのではないかと考えます。
もちろん、宅配の仕組みや宅配を担う働き手、それから各飲食店とのネットワークなど、経済性に関する問いや、希少性に関する問いを満たす資源はあります。しかし、ウーバーイーツが参入してくるまでに、模倣困難性が高い強みが確立されたかというと、疑問符が付きます。

ちなみに、最も代表的な持続的優位性の源泉たる資源は、ブランドです。

今回の新規参入のウーバーイーツは、海外では既に宅配のビジネスを確立しており、新規参入と言えないかもしれません。

しかし、出前館が日本固有の文化やニーズを出前館が捉え、出前館というブランド認知を高めていれば、持続的な競争優位の源泉になったかもしれません。

言うは易し行うは難しですが、新規ビジネスを考える経営者にとって、教訓となる事例ではないでしょうか。もちろん、今後の出前館の巻き返しに、大いに期待します。

あくまでもリリースレベルの情報での判断になりますが、経営戦略のセオリーとしては、間違えていないと思います。これから、認知度が高まり、「出前館といえば●●」というサービスや仕組みが生まれれば、一気に収益を高める可能性も秘めていると思います。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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