話題のニュースを「小売商圏研究のハフモデル」から読み解く
福島県北部の伊達市でイオンモールのショッピングセンターが開業に向けて動き出したという記事を目にしました。消費流出を懸念する自治体や商業者の反対によって膠着状態にありましたが、復興に伴う道路の整備の加速で事態が動き出したとのことです。
その記事の中では、あるジレンマについて取り上げられています。福島県には商業まちづくり推進条例があり、店舗面積8000平方メートル以上の小売商業施設の市街化調整区域への出店は厳に抑制すべきと定められているのです。同県でも、多くの地域と同じように中心市街地の空洞化が問題になり、大型店舗の出店が中心市街地の空洞化を促進しないよう定められた条例です。
一方で、イオンモールは出店を公表しており、年内にも県に出店の届け出を出す見込みとのことです。県が、このジレンマに対してどのような判断を下すか注目が集まっています。今回のケースに限らず、大型店舗の出店と中心市街地の空洞化はセットで語られる傾向にあります。筆者もよく出張に行きますが、昔栄えていた中心市街地がロードサイドに大型店舗ができたことによって、衰退したという地域は枚挙にいとまがありません。
俯瞰してみると、中心市街地の衰退の表層的な要因は、大型店の出店かもしれませんが、その背景にある原因は、消費者が中心市街地の商業施設よりも大型店を選んでいることにあるのではないでしょうか。それでは、中心市街地ではどのような対策を打っていくべきなのでしょうか。様々な自治体や企業が中心市街地の活性化に向けた取り組みをしており、これが正解という施策を導き出すことは難しいように思います。
それを前提として、今回は小売商圏研究の理論の1つハフモデルを切り口に検討してみたいと思います。
ハフモデルとは、文字通りアメリカの研究者であるハフが提唱した理論で、2つの商業集積間にいる消費者のそれぞれの商業集積への買物出向確率を算出するためのモデルです。
くわしい算出公式は複雑ですが、基本となる考え方はシンプルです。2つの異なる商業集積間の消費者の買物出向確率は、商業集積の店舗面積に比例し、商業集積までの時間距離に反比例するというものです。
もっと単純化すると、消費者は店舗面積が大きい商業集積を選びやすく、行くまでに時間がかかる商業集積を選びにくいということになります。このモデルは、店舗面積と時間距離という二つの要因で出向確率を算出しています。商業者の視点で考えた時に、消費者がその商業集積までどのくらい時間がかかるかという時間距離は、消費者の居住地に左右されるため、商業者は操作することができません。
一方で、店舗面積については商業者が最終決定するため操作要因と言えます。(もちろん、冒頭で取り上げたイオンモールの事例のように、行政との兼ね合いなど様々な規制は存在します)
このハフモデルを切り口とするならば、大型商業集積に対して、中心市街地が対抗するためには、中心市街地自体の店舗面積を拡大する必要があるということになります。
もちろんテナントミックスのバランスの良さや、何よりも個店の魅力度は選ばれる商業集積になるための大きな要因であることは間違いありません。またハフモデル自体が古典的な理論であり、研究された場所もアメリカであるため、現在の日本の市場にマッチするか不明瞭です。(アメリカで研究されたハーフモデルを日本版に見直した修正ハフモデルも存在します)
しかし、過去の研究の結果、明確に店舗面積が出向確率に影響を与えていると言えるならば、中心市街地を活性化するために、そもそもハードとしての店舗面積の拡大は避けては通れないのではないでしょうか。もちろん、言うは易し行うは難しです。人工的に作られたショッピングセンターと違って、自然発生的にできた商店街は、構成する店舗やメンバーの方向性が違ったり、土地などの権利関係が複雑だったりするため、簡単に店舗を増やしたり移動させたりすることができません。
つまり、中心市街地の活性化が難しい大きな要因として、大型店に対抗するだけの店舗面積が確保できないということがあげられるのではないでしょうか。それでも活性化を図るならば、前述したテナントミックスや個店の魅力度以前に、店舗面積の確保が必要になるのではないでしょうか。
ちなみに、全国的にも活性化した商店街の事例として有名な高松の丸亀町商店街でも、活性化の初期の段階で百貨店の三越などの協力を得て、商店街自体の店舗面積を確保することに成功していたそうです。
果たしてこの店舗面積の議論が俎上に上るのか、福島県伊達市でイオンモールと中心市街地がどのように共存していくかに注目をしていきたいと思います。
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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。