【GU】なぜユニクロではなくジーユーでフェムテック市場に参入するのか?

話題のニュースを「ブランドアイデンティティと小売の輪の理論」から読み解く

2021年4月10日付けの日経クロストレンドの記事で、ファーストリテイリングが展開するジーユー(GU)が、フェムテック市場に参入したことが取り上げられていました。女性の健康などの悩みをテクノロジーによって解決するフェムテック市場。ジーユーは女性の健康サポートを目的とした機能性下着を2021年3月より発売を開始しました。女性の健康領域については、 Apple も次の重点研究分野の一つとして位置づけており、各社が注目している市場です。

コロナの影響で、やや下火にはなった印象もありますが、日本では女性活躍というキーワードが政治の舞台で叫ばれていますし、バイデン大統領が誕生したことで、副大統領のカマス・ハリス氏が、女性初の大統領として次期大統領に就任することも真実味を帯びてきました。

経営戦略の本質は、環境変化への適応です。いかに先の環境を見通して手が打てるかが大事になります。そして、その環境を分析する王道とも言える手法、SWOT分析では強みを活かして機会を捉えることが重要です。もともとファーストリテイリングには、ヒートテックやエアリズムなど、機能性衣料品の開発力という強みがあります。そして、前述の女性の社会進出が進めば、当然、健康や悩みについても多様化することが予測され、それは企業側にとっては潜在的な需要という機会と見ることができます。実際に、米国のコンサルティング会社のフロスト&サリバンが、2025年までに世界規模で500億ドル市場になると予測したと、記事の中でも取り上げられています。その点から、 GU がフェムテック市場に進出すること自体は自然の流れといえるでしょう。

しかしここで一つ疑問が湧きます。「なぜユニクロではなくてジーユーで展開するのでしょうか」。グローバルな知名度からするとユニクロで展開した方がフェムテックという新しい市場に対して参入障壁が低そうです。もちろん記事にも書かれているように、 GU が2019年12月に発表した「3つのコネクト宣言」の流れと紐づけることはできます。宣言では「生活者」「生産者」「地球」とコネクトする商品やサービスを開発、提供する方針を示したそうです。ただし、多くの企業で、エシカル、サスティナブル、SDGs、ESG投資などが言われており、このコネクト宣言が特異性を有しているとも言えません。つまり、3つのコネクトは、ユニクロではなくてジーユーで展開する理由としては説得力があるとは言えません。

それを踏まえなぜ GU で展開するのでしょうか。
今回は、この疑問について、ブランドアイデンティティと小売の輪の理論の観点から考察したいと思います。

ブランドアイデンティティとは、ブランドを通じて企業が消費者に伝達することを明確化したもの、すなわち、企業が顧客の頭や心の中に何を築きたいのか、顧客とどんな約束・契約をしたいのかを概念化したものです。

GU の企業サイトでは「YOUR FREEDOM 自分を新しくする自由を。」を掲げており、文字通り自由なファッションをブランドアイデンティティとしていそうです。GUは、ユニクロよりも、さらに低価格でファッション性が高い商品を展開しています。そのため消費者にとって、新たなテイストを試したり、着回しの組み合わせを増やしたりしやすく、それが自由につながっているようにも思います。一方で、ファーストリテイリングは、 GU を2013年からグローバルに発信を進める、つまりユニクロの姉妹ブランドとしての存在感を高めようと方針を転換しました。しかし、既存のブランドアイデンティティ、低価格×ファッション性については、価格の程度はありますが、既存のH&M、ZARAなど多数のブランドが同様の方向性をとっていそうです。このような状況下で、GUがグローバルで存在感を増すのは容易ではないでしょう。

今回のフェムテックへの参入は、俯瞰するとGU のブランドアイデンティティの転換の第一歩と見ることができるのではにでしょうか。世界的に発信していくためには、より特徴的なブランドアイデンティティが必要になりそうです。低価格でファッション性が高いブランド、H & M やZARAと一線を画すために、機能性という武器を最大限に生かしていく。まさに低価格×デザイン×機能性というブランドアイデンティティで世界に挑もうとしているのではないでしょうか。

では、なぜわざわざ GU をユニクロに並ぶグローバルな姉妹ブランドにして行こうとしているのか、疑問が残ります。
その疑問に対して小売の輪の理論の切り口から考えてみたいと思います。

小売の輪の理論とは、アメリカの経済学者マクネアが提唱した小売業発展を説明する理論です。革新的な小売業者が、低価格・低機能で既存の小売業のシェアを奪う形で発展します。しかし、そのような革新的な小売業者も、市場でポジションを確立すると高価格に推移していきます。その間隙をぬって、次なる革新的小売業者が低価格・低機能で既存の小売業のシェアを奪うことが循環するという理論です。

まさにユニクロは、革新的小売業者として、既存のファッション・ ブランドのシェアを奪う形で一気に拡大してきました。一方で、ユニクロが今度はシェアを奪われる側に回ったとしてもおかしくありません。実際に、ユニクロでは一時期、高付加価値、高価格へのシフトを標ぼうしたこともありました。著者は、GUが誕生した当初から、ファーストリテイリングが自社でこの小売の輪の理論における、間隙を埋めようとしたのが GU ではないかと考えてきました。

グローバルで見ても、ベーシックな高機能商品を低価格で展開するユニクロのビジネスモデルというのはユニークだと思います。しかし、油断すると革新的小売業者にシェアを奪われる可能性はいつでもあります。ファーストリテイリングは、 GU をグローバルに展開することによって、世界レベルでもこの小売の輪の理論における、間隙を埋めようとしているのではないでしょうか。そのためにはGUのグローバルな認知度を高める必要があり、その一手がフェムテック市場への参入ではないでしょうか。

記事の中で、実際にGUの担当者がフェムテック市場について、「欧米を中心に拡大している」と認識していることを記載しています。海外市場に目を向けていればいるほど、注力する市場といえます。

ここまでの内容はあくまでも著者の私見となりますが、総じて元気がない企業が目につく日本のアパレル業界において、 GU の今後のグローバル戦略に大きな期待と興味を持って注目していきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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