【ライフコーポレーション&ヤオコー】店舗改装急ぐ理由を考察

話題のニュースを「経営指標の労働生産性」から読み解く

ライフコーポレーションとヤオコーが店舗改装の投資を前倒しすることを発表しました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で「内食需要」が高まり業績が好調なことが前倒しの要因とのことです。

新レイアウトではセミセルフレジを増やしたり、スライド式の什器を導入するなどお客様にとって買い回りしやすいことはもちろん、店員との接触も少なく済むような形態になるようです。店舗のスタッフにとっても作業がしやすく、効率的に品出しなどの業務が行える形になるとのこと。今回はこの投資について、経営指標の一つである労働生産性の観点から考えてみたいと思います。

労働生産性の計算式には、いくつかのバリエーションがありますが、2020年度中小企業白書に準じると、労働生産性=付加価値÷従業員数で表すことができます。付加価値額の捉え方も様々ありますが、これも中小企業白書に準じるならば、

●営業純益
●従業員給与、賞与
●役員給与、賞与
●支払利息等
●福利厚生費
●動産不動産賃貸料
●租税公課

を足し合わせたものになります。しかしこの捉え方はやや複雑です。営業純益≒営業利益であり、その他の項目も販売費及び一般管理費の中心費目であることから、付加価値額≒営業利益+販売費及び一般管理費

つまり
売上総利益(≒粗利益)
と捉えることも多いのではないでしょうか。

日本の小売業は労働生産性が低いと言われています。付加価値額を粗利益と捉えるならば、従業員数に対して粗利益が低いということになります。今回の2社の投資によって、労働生産性はどう変わるのでしょうか。

額面通りに考えるならば、省力化投資であり、今までよりも少ない従業員数でオペレーションができる形になるのではないでしょうか。したがって労働生産性の分母である従業員数は減少しそうです。一方で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長期化し、内食習慣が消費者に定着しているとするならば、客数は引き続き好調に推移すると予測されます。その中で、更にお客様にとって買い回りしやすい売り場になるのですから、粗利益額も高まる可能性があるでしょう。

つまり分子も大きくなるということです。計算式に戻るならば、分母が小さくなり分子が大きくなるため、その計算結果である労働生産性は高まりそうです。ただし経営戦略論の観点で見ると懸念事項もあります。仮に省力化投資によって従業員数が減少する場合、店舗運営の効率だけで考えると生産性は高まりますが、人数が減った場合、組織の凝集性の低下や個々の従業員のモチベーション低下など、デメリットも考えられます。そしてそのデメリットは、新しいことを発想したり、挑戦したりする組織力の低下に繋がると言われています。

結果として売上が減少し、売上が減少した結果、さらに人件費削減という名目で従業員数を減らしていくという悪循環に陥る企業も少なくないでしょう。もちろん業績好調な2社なので、省力化投資があったとしても純粋に従業員数を減らすという形は取らず、そこで余裕が出た人的リソースを、売り場のフェアの充実や商品開発など、さらなる付加価値向上のために投入するのではないでしょうか。特に食品スーパーマーケット業界の中でも提案型の売り場に定評のある2社だからこそ、店舗改装への投資による人的資源の再配分によって、売り場のハード面だけではなくてソフト面がどのようにブラッシュアップされるのか非常に楽しみです。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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