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話題のニュースを「マーケティング」の視点で読み解く

今回は、WWDの2021年9月6日の記事「オリラジ中田敦彦に聞く 原価率65%のサステナブル・アパレルブランド「カール・フォン・リンネ」の本気度」と、2021年7月14日の記事「オリラジ藤森が“チャラ過ぎず、チル過ぎない”ゴルフウエアブランド始動」の2つについて、考察をしてみます。

前者は、オリエンタルラジオの中田敦彦さんが新たにカール・フォン・リンネというアパレルブランドを立ち上げたことを伝えています。コンセプトは「未来のために、知性の上に着る」で、サステナブルがテーマとのことです。

中田さんは幸福洗脳というブランドを既に立ち上げています。幸福洗脳は、多くの人が着やすいデザイン、買いやすい価格の服をテーマにしているそうです。記事によると、その経験から、今度は「ちゃんとした服を作りたい」と考えたのが、カール・フォン・リネン立ち上げのきっかけだったのこと。

幸福洗脳のデザイナーでもある松村啓市さんに構想を話したところ、サステシナビリティ問題に挑戦してほしいと逆提案を受けたことから、現在のコンセプトに行きついたとのことです。

記事の中で特徴的だと感じたのは、WWDのインタビュアーが中田さんの新ブランドについて「サスティナビリティを伝える、知らせる」ことを成し遂げようとしているのかと聞いたことについて、中田さんがその通りと応じている点です。

一方で、後者の記事では、同じくオリエンタルラジオの藤森慎吾さんがゴルフウェアブランド「アイリッシュマン:を立ち上げたことを取り上げています。同ブランドは、クルーネックのウェアや、ビッグシルエットのウェアなど、従来のゴルフウェアとは一線を画すデザインが特徴とのこと。パーカーなども展開しているようですが、カラーやデザインのトーンは、全体的にシンプルで大人なコレクションということです。

記事の中の藤森さんのコメントの中で興味深かったのは、「これが今の藤森の精神状態」「チャラ過ぎず、チル過ぎない服がいいーー同い年くらいの人には分かってもらえるはず」というものです。

くしくもコンビで同じタイミングで新ブランドを立ち上げた二人ですが、一見、そのブランドマーケティングアプローチはまったく違うように見えます。

中田さんのカール・フォン・リンネは、ソサイエタル・マーケティング・コンセプトの要素が強い印象です。ソサイエタル・マーケティング・コンセプトは、顧客のニーズや利益を正しく判断して、消費者のみならず社会の幸福を維持・向上させる方法で、顧客ニーズに沿った満足を効果的かつ効率的に提供するという概念を表します。サスティナビリティを真正面から標榜するカール・フォン・リンネは社会の幸福を維持・向上させることを前提としていると言えるでしょう。

一方で藤森さんのアイリッシュマンは、典型的なターゲット・マーケティングのように思います。藤森さんらしさを打ち出したテイストの商品を、ゴルフをやる同年代の消費者に向けて、打ち出しています。「同い年くらいの人には分かってもらえるはず」というコメントは、裏を返せば分かってもらえる人にだけ分かってもらえればいいと捉えることができます。このように市場を細分化して、その中で特定のターゲットに向けてマーケティング・ミックスを構築する。まさにターゲット・マーケティングといえます。

このように、マーケティングアプローチがまったく違う2つのブランドですが、根底で大きな共通点があるように考えます。その共通点とは、いったい何でしょうか。

私見にはなりますが、両ブランドの根底には共通して非物質化への適応があるように思えます。

非物質主義につきましては、Member‘sのサイトに、京都大学大学院の諸富徹先生のコラムが載っています。詳しくは、同コラム「「新しい資本主義の在り方“非物質化”とは?」 京都大学大学院 諸富 徹 教授:Social Good な企業とその取り組み 特別編」が非常に示唆にとんでいるため、お薦めです。

諸富先生によると、「無形資産、いわばコトを中心とした経済・社会の在り方が移行していくことを「非物質化」」というとのこと。産業革命以降続いてきた物質を対象とした投資や消費が、1990年代半ばにおこったIT革命以降、どんどん非物質化に以降してきているとのことです。

非物質化を経済の側面で捉えると、物質主義の時代では今まではモノを作ることで汚染水や汚染された空気が生み出されていましたが、現在は環境汚染問題はもとより脱炭素や景観への影響などコトを重視していこうとする動きが世界各国でおこっています。この点について、日本人にアナウンスしていこうとするのが、まさに中田さんのカール・フォン・リンネです。

一方で、藤森さんのアイリッシュマンは、直接的に非物質化のメッセージは発信していないように見えます。しかし、藤森さんは前述の記事の中で、ターゲットとしているゴルフを楽しむ人の声として「自然が気持ちいい」「仲間と集まれる」というニーズがあることに言及しています。

個人的な見解にはなりますが、ゴルフで接待を行うという行動は、まさに日本における高度成長時代からバブル時代にかけて物質主義の時代の象徴ではないでしょうか。一方で、「自然が気持ちいい」「仲間と集まれる」は、どちらかというと環境を大切にしたい、無形資産である人とのコミュニティを大切にしたい、というマインドが流れているように思えます。これは、非物質化の流れと一致する部分があると考えます。実際に、アイリッシュマンのデザインが、これまでの伝統的なゴルフウェアではタブーとされていたパーカーなどを取り入れている点からも、従来の価値観ではなく新しい価値観を提供しようとすいていることが分かります。その点から、アイリッシュマンも非物質化の流れを汲んでいると言えるのではないでしょうか。

仮にオリエンタルラジオの2名のブランドが非物質化のコンセプトを有しているとした場合、このブランドの展開にどのような影響を与えるのでしょうか。

そこで着目すべきが、非物質化の流れとリンクして取り上げられることが多い、リキッド消費です。リキッド消費については、このブログでも何度か取り上げましたが、やはりIT革命によって進展してきた、短命でアクセスベースで非所有の消費のことをいいます。今までは自動車を購入していたが、カーシェアに転換してきていることなどが例として挙げられます。

自動車を購入するということは、長い期間(短命ではない)、物質的に持つ(所有、アクセスベースではない)ことを意味します。それに対して、カーシェアは自らが物資的に所有せず(非所有)、使いたい時にだけ(短命性)、カーシェアサービスを利用する(アクセスベース)であることが特徴です。

そして、このリキッド消費は比較的若い世代に広がっている傾向があるといわれています。それと同様に非物質化も若い世代では当たり前の価値観になっているようです。

更に、その世代に向けた代表的なコミュニケーションツールが、youtubeです。youtube自体が、短命性、非物質、アクセスベースというリキッド消費の象徴でもあります。

オリエンタルラジオの2人は、youtuberとしても活躍しています。中田さんの中田大学は400万人超のフォロワーがいますし、藤森さんも中田さんほどではないにしろ70万人以上のフォロワーがいます(2021年9月12日現在)。

そしてyoutubeがリキッド消費の象徴であるとするならば、そのフォロワーに、非物質化の価値観を有している可能性が多分にあります。その点を鑑みると実は、カール・フォン・リンネもアイリッシュマンもyoutubeフォロワーという既存顧客に向けて、その根底にある価値観と共鳴しやすいコンセプトを提供していると言えるのではないでしょうか。

一見、異なるコンセプトかつマーケティングアプローチをとっているように見える2つのブランドですが、実は目の前にいるコアなファン層のハートを掴む仕掛けが施されているように思えます。このような抜け目のなさが、何度も再ブレイクを果たし、吉本工業を離れても活躍し続けるオリエンタルラジオのエッセンスと言えるのかもしれません。

両ブランドが今後、どのように進化を遂げていくのかに注目したいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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