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話題のニュースを「イノベーションの普及曲線」から読み解く

SBクリエテイィブ社が運営する情報プラットフォーム「ビジネス+IT」の2021年5月13日の記事で、アマゾンが「ヘアサロン」を開業した理由について詳しい考察が掲載されており、とても興味深く拝読しました。

記事によると、アマゾンはイギリスのイースト・ロンドン・リバプール駅近くのブラッシュフィールド通りにヘアサロンを展開したのことです。

併せて、ヘアサロンは顧客にテクノロジーを体験してもらうことを目的にデザインされているというアマゾンのリリース情報も掲載しています。

アマゾンが「ヘアサロン」を開業した理由について、記事の中で丁寧に考察されています。このブログでは更に考察を掘り下げてみたいと思います。

その第1回目となった前回は、「環境変化への適応と最適な資源配分」という経営戦略論の観点から考えてみました。

今回は、マーケティング論の観点から検討してみます。

注目したいのは、アマゾンのリリースにある、「顧客にテクノロジーを体験してもらうことを目的に」という点です。「同サロンはテクノロジーのショーケースが目的」であると記事の中で取り上げられています。

そして、同記事内では、アマゾンが、テクノロジーを他の会社に販売する可能性を示唆したことも取り上げられているのです。

つまり、アマゾンはテクノロジーのショーケースであるサロンから、新しいテクノロジーを発信し、それを他企業へと展開することで収益を得る。そのような、ビジネスモデルを模索している可能性に言及されています。

では、なぜ、テクノロジーのショーケースが、ヘアサロンである必要があるのでしょうか。
その点を、マーケティング論を代表する研究者の一人であるE.ロジャースのイノベーションの普及曲線で考えてみます。

E.ロジャースは、新しいテクノロジーなどのイノベーションが生活者に受け入れられ、普及してい行く過程をモデル化しました。それがイノベーションの普及曲線です。

具体的には、イノベーションは、下記の①~⑤の順番に普及するというモデルです。

①イノベーター:2.5%

②アーリー・アダプター:13.5%

③アーリー・マジョリティ:34.0%

④レイト・マジョリティ:34.0%

⑤ラガード:16.0%

①のイノベーターは、未知のテクノロジーに対して「新しさ」という理由から、進んで手を伸ばす人々です。

②のアーリー・アダプターは、新しいテクノロジーを自らに価値をもたらしてくれるかを判断した上で、手を伸ばす人々です。

③のアーリー・マジョリティは、ある程度新しいテクノロジーが浸透してきた平均的な時期に、採用する人々です。

④のレイト・マジョリティは、平均的な時期よりも後になって採用する、言ってみれば流行を後追いする人々です。

⑤のラガードは、すでに次のテクノロジーが出てきている段階になってはじめて手を伸ばすか、最後まで採用をしない人々です。

ところで企業が新しいテクノロジーを市場に投入し成功させるためには、マジョリティ(大衆)の支持を得ることが不可欠です。つまり、アーリー・マジョリティへと普及させていけるかがポイントになります。

しかし、アーリー・マジョリティは平均的な時期に採用する層です。アーリー・マジョリティは、そのテクノロジーがある程度普及しなければ存在に気づいてくれないといってもいいでしょう。

では、アーリー・マジョリティはどのようにテクノロジーの存在を認知するのでしょうか。その時に大きな役割を果たすのが、アーリー・アダプターと言われています。アーリー・アダプターは、新しいものを取り入れていく先進性を持ちながら、一般的な価値観を持っているため、大衆から見たときに生活のモデルとなる存在なのです。

ちなみに、真っ先に新しいものに飛びつくイノベーターは、革新性が高すぎるため大衆の参考にはなりにくいとされています。

つまり、企業が新しいテクノロジーが大衆に届くかどうかをチェックするリトマス試験紙的な存在といえるのが、アーリー・アダプターなのです。

世界屈指の都市ロンドンのイーストリバプールは、一昔前は治安が悪いというイメージが強かったようですが、現在は、アートやファッション、ミュージックなど、ロンドンの最新カルチャーを発信するエリアとなっているそうです。

そして、そのような地域のヘアサロンは高単価だと推測できます。アートやファッションに足を伸ばし、一定以上の出費ができる層となれば、アーリー・アダプターである可能性が高くなるのではないでしょうか。

あくまでも私見にはなりますが、イノベーションの普及曲線の視点からみれば、アマゾンがテクノロジーのショーケースと位置づける場所として、イーストリバプールにヘアサロンを展開した理由として、アーリー・アダプターがテクノロジーにどのような反応を示すかをチェックしたり、マジョリティへクチコミによって架け橋をかけてくれる、そのような期待が込められている。そう捉えることもできそうです。

もちろん、記事にもあるように美容業界のポテンシャルにひかれてヘアサロンを展開したという点が大きいと思いますが、それに加えてテクノロジーの普及を見極めたり、促進する機能をもつ一つのインターフェースとして、このヘアサロンを位置づけている可能性があるのではないでしょうか。

長期的な戦略を描き、自社のイノベーションの普及さえも計画的におこなう。ここからも、世界を牽引する企業であるアマゾンの強さの一部を垣間見ることができます。

次回は、アマゾンのヘアサロン進出の理由について、組織論の視点から考察してみたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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