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話題のニュースを「競争地位別戦略」から読み解く

2021年7月17日付けの日経MJで、「本気のイオン、ディスカウント店に挑む」というタイトルで、イオンがディスカウントストアに本格的に乗り出すことが取り上げられていました。

記事では、イオンが2021年2月にこれまで食品スーパー事業が所感していたディスカウントストア事業(DS事業)を独立させ、展開していくことについて業界で驚きをもって受け止められたと論じていました。

同記事によると、イオンのDS事業の2020年度の業績は、売上高3900億円。2019年度対比で18%増とのことです。

イオンのDS事業では、ビッグ・エー、ザ・ビッグ、アコレなどが展開されています。

しかし、これまでグループ内でDS事業はそれほど大きな存在感を示していないことも、記事の中で触れられています。

そして、記事の中で注目の内容は、イオンにとって、DS拡大に向けたハードルは高いと触れている点であり、ビッグ・エーの三浦社長が言及した「DSで勝ち残るためには、『餅は餅屋』の発想が必要になる」というコメントも取り上げられている点です。

イオンのDS拡大のハードルとして、イオンが高コスト運営を行ってきていて、低コスト運営が不可欠なDSに体質変換をおこなわなければならないことが挙げられています。

イオングループといえば、いわずとしれた国内小売業売上高NO.1を誇るグループです。多くの経営資源を有しており、中核となるGMS事業、イオンモールが展開するショッピングセンター事業などをはじめ、多岐に渡る事業を展開しています。

社内のコストの体質を改善することは確かに困難ですが、内部要因であり統制可能です。多くの資源を投資するならば、そのハードルをクリアすることは十分に可能なのではないでしょうか。

そうなると、気になるのが外部要因です。記事にも、ヤオコーが「フーコット」を展開し始めるなど、DS業界が戦国時代の様相を見せていると書かれています。

さて、そのような中で日本の小売業の中で大きな経営資源を有するイオンが、どのようにDS事業を拡大していくべきなのでしょうか。

今回は、競争地位別戦略の視点から読み解いてみたいと思います。

競争地位別戦略とは、業界内の企業を、相対的経営資源の量と質の視点から、4つのポジションに分類し、それぞれのポジションに応じた戦略のあり方を考えるフレームワークです。相対的経営資源とは、競争相手に対して量が多いのか質が高いのかという視点です。

ちなみに分類のパターンは下記のとおりです。

相対的経営資源の量(多い)×質(高い) → リーダー
相対的経営資源の量(多い)×質(低い) → チャレンジャー
相対的経営資源の量(少ない)×質(高い)→ ニッチャー
相対的経営資源の量(少ない)×質(低い)→ フォロワー

ここでいう経営資源の量とは、文字通り、ヒト、モノ、カネ、情報・ノウハウのボリュームを表します。一方で経営資源の質というのは、その事業について知見やノウハウと考えると整理しやすくなります。

つまり、他の事業では質が高くても、あまり注力していない業界では知見や経験、仕組みが不足し、質が低くなります。

さて、今回のイオンのDS事業をポジショニングするとどうでしょうか。

まず論点は、DS事業についての経営資源の量でしょう。他のDSを柱とする事業者が全国規模なのに対して、イオンのDS事業は店舗数が少ない状況です。したがって、経営資源の量は少ないといっていいでしょう。

一方で、経営資源の質はどうかというと、これも、客観的に見て知見やノウハウ、仕組みの積み上げが不十分で、高い状態とはいえません。

あくまでも私見になりますが、DS事業だけに絞っていうと、イオンはフォロワーの状況ではないでしょうか。

ちなみに、この競争地位別戦略は、P.コトラーと嶋口充輝によるモデルで、各ポジションに基本戦略方針、戦略定石が定められています。

ニッチャーの基本戦略は、模倣であり、戦略定石はリーダー、チャレンジャーの観察と迅速の模倣となっています。しかし、ニッチャーはあくまでも模倣であり、4つのポジションの中で最も不利といえるでしょう。

したがって、イオンのDS事業の成長を、外部要因の観点から論じるならば、このフォロワーを抜け出し、他のポジションに位置取りをする必要があります。

もちろん、最初からリーダーのポジションに移ることがベストですが、資源の質と量を両方、一気に高めるのは現実的ではないでしょう。

そこでフォロワーを抜け出すには、2つの方向性が考えられます。

一つは、相対的経営資源の質を高める方向性です。先ほどの、パターンに当てはめると、

相対的経営資源の量(少ない)×質(低い)→(高い)

となるため、ニッチャーのポジションに移ることになります。

ちなみにニッチャーの基本戦略方針は、製品・市場の絞り込みであり、戦略定石は、特定市場の中でのミニ・リーダー戦略です。

例えば、一人暮らしのOL向けディスカスントストアなど、徹底的にターゲットを絞ってその中で戦っていく方法です。

もう一つは、相対的経営資源の量を増やす方向性です。

相対的経営資源の量(少ない)→(多い)×質(低い)

となるため、チャレンジャーのポジションに移ることになります。

さて、記事によれば、今回のイオンのDS事業強化の背景として、「内部的には売上高1兆円」を必達目標としているらしいとのこと。つまり、イオンは経営資源の量を増やす、チャレンジャーへとポジションどりを本格化すると読みかえることができます。

チャレンジャーの基本戦略方針は、対リーダー差別化、非オーソドックスです。戦略定石は、リーダーができないことへの挑戦です。

ということは、既存のディスカウントストアが実践している、安く売る、エブリデーロープライスの店舗を増やすだけでは対リーダー差別化にはならないため、何か新しい仕掛けが必要ということになります。

その新しい仕掛けとして、考えられるのが記事の中でも取り上げられている、ひそかに出店を進めている新業態「パレッテ」の存在です。パレッテはグループ内で「未来型ディスカウントストア」を標ぼうし、ノウハウの蓄積を推進しているとのことです。

特に、キャッシュレス決済アプリの「スキャン&ゴー」を取り入れている点がポイントです。

決済が不要で手間やディスカウントストアにありがちなレジ待ちが緩和されれば、十分な差別化要因になります。また、その分レジのサッカー要員が減少するため、コストダウンになり、前述のハードルの一つである、ローコストオペレーションの推進にもつながります。

このように、競争地位別戦略のポジショニングと、各ポジションの基本戦略方針、戦略定石から読み解けば、今回の記事のタイトルにもある「本気のイオン」というのが、さらに信憑性をおびてくるのです。

もちろん、イオンがこの競争地位別戦略を意識しているかは知る由もありません。しかし、戦略理論を活用することで、戦略の成功確率を高めるとともに、検証をしやすくすることは間違いありません。

この理論をベースに、今後もイオンのDS事業の展開に注目していきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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