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話題のニュースを「イノベーションのJカーブ曲線」から読み解く

2021年5月10日付けの日経新聞オンラインで「ソフトバンク、水再生処理スタートアップと資本提携」という記事が目にとまりました。記事によると、ソフトバンクは、水処理装置を製造・開発するスタートアップ企業であるWOTA(ウォータ)に出資(出資額非公表)をしたそうです。

WOTAの設立は2014年。東大発スタートアップ企業です。モノがインターネットにつながる、いわゆる「IoT」のセンサーを利用し、水質の計測とデータ収集を実施。分析結果に合わせて水の再生処理を人工知能(AI)によって制御するシステムなどを開発しているそうです。

当技術によって、水道がない場所で安全な水を繰り返し供給できるようになるため、ソフトバンクとWOTAは、水道インフラの維持が難しい過疎地に展開すべく、独自の水供給システムを構築していくとのこと。

記事によると、国内の過疎地を視野に入れているようですが、もちろん、当技術は海外の発展途上国でも多くの需要があり、日本が誇る環境技術に発展することが大いに期待できます。

このように有望なベンチャー企業に出資をして、それを大きく育てていく。これは、ソフトバンクが得意とする戦略的意思決定といっていいでしょう。

代表例は、当時、黎明期でまぎれもなくベンチャー企業であった米Yahoo!に出資をしたことでしょう。ソフトバンクは、なぜ、ベンチャー企業。特に黎明期に出資をするのでしょうか。

今回はイノベーションのJカーブ曲線で考察してみたいと思います。

新規事業のスタートアップ段階では、開発や宣伝にコストがかかるため、最初はキャッシュフローがマイナスになりやすい。その後、成果が出ることによってキャッシュフローがプラスに転じる。このキャッシュフローの動きを累積的に曲線でで描くと、「J」の文字のようになります。これを、Jカーブ曲線といいます。

ベンチャー企業にとっては、このJカーブの底のキャッシュフローがマイナスの期間の乗り越えられるかが、成功するか否かの大きなポイントになります。裏を返すと、ベンチャー企業が展開するのは、イノベーティブな新規事業であり、必ずといっていいほど、ローンチしてから市場に事業が受け入れられるまでに一定程度の時間がかかるというリスクを負うことになります。

それを乗り越えるために、ベンチャー企業は、金融機関はもちろん、ベンチャーキャピタル、投資事業有限責任組合などから出資を取りつける必要があります。

ソフトバンクが黎明期に出資する一義的な要因は、このJカーブの底を支えることによって、イノベーティブな新規事業を羽ばたかせることにあるといえます。

ソフトバンクが出資する要因として、もう一つ。ソフトバンクの経営資源を貸すことによって、ベンチャー企業がダーウィンの海を超えやすくなることがあげられるでしょう。

ダーウィンの海とは、開発した技術を事業化したあと、軌道に乗せる際に、既存の商品や他企業との激しい競争に直面するという障壁を指します。

ソフトバンクは、資金面だけでなくマーケティングリソースを共有することによって、このダーウィンの海の障壁をやわらげたり、この海を泳ぎ切る期間を短くし、Jカーブの上昇角度を高めることを意図しているのではないでしょうか。

有望なベンチャーに投資をして将来収益を回収する。非常に単純で当たり前のことですが、このようにJカーブ曲線を基軸に考えると、資金面の出資だけでなく、自社のリソースを共有することが、短期間で資金回収をしたり、自社のビジネスへの好影響をもたらす鍵になっていることが分かります。

実際に、ソフトバンクは、今回の出資を機にWOTAの販売代理店となり、水道インフラにつながずに水を供給できるという移動式の水循環型手洗い機の「WOSH(ウォッシュ)」を市場投入していくそうです。

既存企業がベンチャー企業に出資する際には、その事業の有望さもさることながら、自社がもつマーケティングリソースとの親和性を考えることが、非常に重要になります。

その視点をもって、今後の2社の動きに注目してみてはどうでしょうか。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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