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話題のニュースを「戦略論のドメイン」から読み解く

 

任天堂が快走しているという記事が、日経ビジネスデイリー(2021年3月31日付け)のサイトに掲載されていました。2021年3月期の連結純利益は約55%増で約4,000億円。過去最高益の見通しです。ゲーム機事業が基軸になっていることは間違いでしょう。

ただ、その記事でも、任天堂の人気持続の鍵をゲームソフトと論じています。特にあつ森(あつまれ どうぶつの森)に代表されるように、世界観を大切にしたゲームが存在感を高めています。世界観を大事にしたゲームソフトを多数市場に投入していることから、任天堂がディズニーランド化しているなどの論調もみられるようになりました。

言い得て妙と言えますが、任天堂のディズニーランド化という表現は適切なのでしょうか。今回はこれを戦略論のドメインの視点から読み解いてみたいと思います。

ドメインとは、従来住所を表す用語ですが、戦略論では、企業や事業が存在する領域という意味で使われます。いわばその企業や事業が存在するビジネス上の存在場所と言えます。戦略論にドメインという概念を持ち込んだ研究者といえば、レビットの名前が思い浮かびます。

1965年の Harvard Business Review で、マーケティングマイオピアと言う論文を発表し、その中でドメインを取り上げたことは非常に有名です。ビジネス上の領域を定義することをドメインの定義と呼びます。実際の地理的な広がりではないビジネス上の領域を、どのように区分するのでしょうか。

戦略論の研究者や書籍が取り上げている中で、市民権を得ていると言えるのがエーベルの定義ではないでしょうか。エーベルは戦略論におけるドメインについて、「Customer」、「Function」、「Technology」の3つを決めることで定義することを提唱しました。

カスタマーとは、標的顧客。ファンクションとは、その顧客に対して提供する機能。テクノロジーとは、機能を提供するための独自技術と解されています。

今回記事で取り上げられている任天堂の戦略論のドメインとは、どのようなものなのか考えてみたいと思います。任天堂は、もともと花札を販売する会社でした。その後、日本で初めてトランプを発売しました。任天堂の飛躍の契機になったのは言うまでもなくファミリーコンピューターの開発と販売でした。ファミリーコンピューターの人気を確定的にしたソフトがスーパーマリオブラザーズ。マリオというキャラクターは、世界的なアイコンになっていると言っても過言ではないでしょう。

その後、一時期 PlayStation にゲーム機市場で押される時期が続きました。2000年代に入り、いわゆるポータブルゲーム機戦争の主役となった任天堂 DS の大ヒットにより復権しました。その後も家族で体を動かしながら楽しめる任天堂 Wii。発売から4年経った21年3月期においても、約2,650万台と過去最高の出荷台数を記録するとみられているNintendo SWITCH。

消費者に対して、常に新たなゲーム機を提供し続けてきたのが特徴です。このような背景を鑑み、任天堂の戦略論のドメインを考えてみたいと思います。任天堂が提供してきたファンクション。つまり顧客に対する機能とは何だったのでしょうか。単純に考えると任天堂が顧客に提供しているものはゲーム機といえます。任天堂のゲーム機に共通するのはキャラクターやゲームソフトの世界観の連続性はあるものの、ゲームの操作性に連続性は感じられないことです。

例えば、任天堂 DS と任天堂 Wii では全く異なる操作と言っても良いのではないでしょうか。この点から、任天堂は一貫して、ゲーム機ではなくゲームソフトによって生み出す世界観を提供し続けた会社と言えるのではないでしょうか。もっと言うと、ゲーム機というのは花札やトランプと同様にドメインの中で言うテクノロジーに該当する部分。ファンクションは消費者が楽しむことができる空間や世界観と言えるのではないかと思います。

もし、任天堂が単にゲーム機をファンクションとして提供する会社であれば、おそらくこのように振れ幅の大きい新たなゲーム機を市場に供給し続けることは難しかったのではないでしょうか。

さて、冒頭に提示した任天堂がディズニーランドかしてきたという論調が正しいかどうかという点に戻って考えてみましょう。

客観的に見たディズニーランドの戦略論におけるドメインはどのようなものでしょうか。おそらく、ディズニーランドのアトラクションやパレードもあくまでもテクノロジーであり、ファンクションは消費者が楽しむことができる空間や世界観ではないでしょうか。

つまり、任天堂とディズニーランドを比較したとき、顧客に対してファンクションを提供するためのテクノロジーについては違いがあるものの、提供するファンクションについては、共通していそうです。さらに、両者ともそのファンクションは、歴史的に見て一貫しています。従って任天堂はディズニーランド化してきたのではなく、元来、ディズニーランドと同じファンクションを顧客に提供し続けてきたと表現したほうがより適切ではないでしょうか。

ただし今後 、VR やAR などの技術が進展してくれば、任天堂のテクノロジーがより空間演出に振れる可能性が高まるでしょう。その点から、ディズニーランドとクロスオーバーして語ることは、優れた視点といえるでしょう。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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