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話題のニュースを「マーケティングの知覚」から読み解く

2021年3月29日付け、日経ビジネスのオンラインサイト上で、サントリースピリッツが発売しているジン「翠(SUI)」が好調という記事を目にしました。20年度の実績は、95,000ケースと当初目標の3倍とのことです。記事によると、「薬臭さがない」や「ゆずのような香り」など、その品質が評価されているようです。

ジンの市場は世界的に拡大しているようですが、日本では一般的とまでは言えないのではないでしょうか。そのような中で、サントリースピリッツがジンの売り上げを伸ばしたのには、プロモーションの工夫があります。

サントリーは、ハイボールをプロモーションすることでその人気に火をつけ、売上を拡大してきた実績があります。有名女優をテレビコマーシャルに起用し、唐揚げとハイボールが合うなどの飲み方の提案を行なっていたのを記憶されている方は多いのではないでしょうか。もちろんそれに合わせて、飲食店店頭でのポスターによるプロモーションを並行して行いました。そのような実績があるサントリーだからこそ、今回も飲み方の提案の工夫によって、ジンの市場を拡大できると考えたのでしょう。

サントリーは、ジンをどのようにプロモーションしたのでしょうか。これもその記事の中に書いてあります。

ときは新型コロナウイルス感染症拡大の真っ只中。ハイボールの時のように、居酒屋での訴求力は難しい局面でした。自ずとプロモーション展開の場は、食品スーパーにシフトしていきました。

「居酒屋メシに翠ジンソーダ」

というキャッチコピーのポスターで、アピールを行ったそうです。巣ごもり需要が拡大する中、食事と合わせて美味しく飲めるお酒というイメージを消費者側に提案した形です。ハイボールと唐揚げの組み合わせのように、飲み方を提案できるのがサントリーのプロモーションの特長と言えるのではないでしょうか。

さて、サントリーに限らず、味の素で取り組んでいるクロスマーチャンダイジングなど、
店頭で使用場面や使用シーンが想起されるプロモーションは効果が上がりやすいと言われています。その理由について、マーケティングの基本用語である「知覚」という概念で紐解いてみたいと思います。

知覚というのは様々な定義がなされていますが、あえて平たく言うと、世界観という言葉に近いでしょうか。人には知覚の選択性があると言われています。これは、「自分が知覚しやすい情報は頭の中に入るものの、知覚しにくい情報は頭に入らない」と言う人間の特徴を表した言葉であると理解しています。

賑やかな立食パーティーの場で、周りの人が話している声が全く耳に入らないにもかかわらず、遠くの方で自分の名前が呼ばれたときにはパッと耳に入ってきたことがあるという経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それは、非常に知覚しやすい自分の名前という情報については、賑やかな場所で周囲の聞き取りにくい、知覚しにくい声に比べて頭の中に入りやすいという、まさに近くの選択制の結果起こった現象といえると思います。

小売店等で使用場面や使用シーンを想起させるようなプロモーションが効果的なのは、この知覚の選択性と関係があると考えます。例えば、ジンに馴染みがない人でも、上記のキャッチコピーを目にすることで、ジンをソーダ割りにして焼き鳥と一緒に食べてみようかと頭をよぎれば、ジンを飲むという知覚が形成されやすくなるということが言えると思います。

付加価値の向上が必須と言われている現在、このように消費者に知覚されやすいプロモーションを上手に使っていくことが、これからの企業に求められることではないでしょうか。ただし、プロモーションを中心に論を展開してきましたが、その記事にも書いてあるようにサントリーがジンを作り始めたのは1936年。今の消費者に合った品質を作るのにこれまで多大な挑戦と経験を積み重ねて、極めて高い製造ノウハウを有していることを忘れてはならないと思います。

プロモーションは高品質の商品やサービスがあってこそ効果を発揮します。自社の強みが何かを考え、それを最大限プロモーションによって消費者に届ける努力を続けていく。今も昔もこの方法に変わりはないのでしょう。それを見事に体現しているサントリーの取り組みに、これからも注目していきたいと思います。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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