【リブライトパートナーズ】JICAと協業 インパクトを定量化する必要性とは

話題のニュースを「人間の意思決定のメカニズム」の視点で読み解く

2021年11月2日の日本経済新聞で、ベンチャーキャピタル(VC)のリブライトパートナーズが、JICAとインパクト評価で協業すると紹介されていました。

ご承知のとおり、VCは企業に投資し、対象企業が成長した段階で売り抜けることでキャピタルゲインを得ることを生業としています。ポイントは、そのVCに合った投資先をいかに見つけるかに尽きるでしょう。

もちろん、ビジネスで投資する以上、成長することは大前提といえますが、昨今は単に成長するポテンシャルだけが評価指標ではなく、社会に対してどれだけ貢献するかなども投資先選定の基準として挙げられることが増えてきたように思います。

今回、リブライトパートナーズが、国際協力機構(JICA)と協業し、社会や環境へのよりよい変化(インパクト)を定量的に評価する仕組みを導入するのもその一環といえます。

この取り組み自体、非常に素晴らしいものだと考えます。また、目に見えにくいインパクトを定量化することも非常に先進的な取り組みだと考えます。その上で今回は、あえて、なぜインパクトを定量化する必要があるのかを人間の意思決定のメカニズムと絡めて、考えてみたいと思います。

意思決定に関する研究者の第一人者の一人として、H.サイモンが挙げられます。サイモンは、従来、古典的管理論を前提とした「経済人モデル」に対して、主な情報のみをとらえた単純化された状態の中で意思決定するという「経営人モデル」を提唱しました。詳しくは下記のとおりです。

①経済人モデル
古典的管理論。サイモン以前に提唱されていた。
人は、最適な基準で意思決定するとしたモデル。
具体的には、人が意思決定する際にはすべての選択肢を情報収集し、すべての選択肢の結果を予測した上で、すべての選択肢の結果を完全に評価し、最適な意思決定を下すとするもの。

②経営人モデル
サイモンが提唱したモデル。
人は、主要な局面のみをとらえてその中で満足がいく意思決定をするとしたモデル。
具体的には、人が意思決定をする差異には部分的な選択肢を情報収集し、その選択肢の中でさらに部分的に結果を予測し、結果を不完全に評価するとしたもの。

皆さんもご自身に置き換えてみるとわかるように、人が①の経済人モデルのように合理的に意思決定することはほぼ不可能でしょう。したがって、②のサイモンの経営人モデルが人の意思決定をより正確に表しているといえるのではないでしょうか。

そのような中で、曖昧な定性評価のみで社会へのインパクトを捉えることは、ともすると多くのバイアスがかかった判断に陥ってしまうでしょう。

その意味で、定性的なインパクトを定量化することに意味があるのです。

これは、企業における人事評価や事業計画にも当てはまります。前者は定性的な要素項目をできるだけ定量化することで、バイアスを減らすことができます。後者は、企業が提供する価値をなるべく定量化することで、何をどのように提供するのかが整理しやすく、周りに伝わりやすくなります。

今回の記事とサイモンのモデルから読み取れる教訓は、人の意思決定の本質が経営人モデルであることを前提とした仕組み作りが、組織における制度や計画には不可欠である、ということではないでしょうか。

リブライトパートナーズが、VCとして収益的な成長はもちろんのこと、その生業を通していかに社会に良いインパクトを与える企業を支援できるか。その点に、注目していきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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