【住友商事】社内起業制度 社内でイノベーションを起こすために必要なことは?

話題のニュースを「エフェクチュエーション」の視点で読み解く

10月22日の日経産業新聞で、住友商事が年功序列的な人事制度を変更するという記事が掲載されていました。具体的には、職務によって報酬と評価を決めていく職務等級制度を導入するそうです。それによって、場合によっては20代でも従来の管理職相当の役割を担うこともでてくるそうです。

住友商事はその他にもいろいろな組織変革を進めています。近年取り入れられた社内起業制度もその一環といえるでしょう。

日本企業にイノベーションが必要と言われており、そのためにはイノベーションをおこせる起業家的なマインドを持った人材が必要になります。社内起業制度は、そのような人材を育成する制度として有名です。

ところで、イノベーションを起こすことができる起業家的なマインドとは、どのようなマインドでしょうか。

もちろん、一概にこれだということはできません。今回は、一つの切り口として、熟練の起業家の行動を分析することから起業家の行動原理を説明した、インドの研究者、S.サラスバシーのエフェクチュエーションの観点から考察したいと思います。エフェクチュエーションとは、結果ではなく手段を起点に問いかけることから始めるという概念です。

サラスバシーは、ジグソーパズルとパッチワークキルトの比喩でエフェクチュエーションの考え方を説明しています。従来の企業経営のセオリーは、ジグソーパズル的といえます。結果である目標(パズルが完成した時の絵)を設定して、そこから逆算して手段や材料(パズルピース)を集めながら組み合わせていきます。ちなみに、このようなアプローチをコーゼーションといいます。

一方でエフェクチュエーションは、パッチワークキルト的です。キルト職人は、手持ちのキルト生地を組み合わせながら、アレコレ調整しながら全体を構成していきます。結果的には、個別のキルト生地の時には想像できなかったような美しい模様の絨毯ができたりするのです。

このように熟練の起業家は、自らが持っているアイデンティティや知識、人脈を認識し、それをうまく使いながら、大きな成果を出していくのです。ここまでが、サラスバシーが展開したエフェクチュエーションの考え方を私なりに、理解した見解です。

さて、社内にいながらイノベーションを起こそうという場合、コーゼーション的なアプローチでは、ジグソーパズルの絵を描いたとしても、そのピースを集める大変さや社内での抵抗などを考え、とても無理だと諦めてしまったり、途中で頓挫してしまうことが多いのではないでしょうか。

あるいは、絵を描く時に例え尖ったアバンギャルドな絵(イノベーティブな目標)だったとしても、既存の事業との整合性などを考えることで、だんだんと一般的な平凡な絵(予定調和な目標)になってしまうということがあるかもしれません。

その点から、経営者は、サラスバシーのエフェクチュエーションの考え方をスタッフが実践することを設計したほうが、起業家的なマインドをもった人材に育ちやすいといえるのでしょうか。

さて、その時に問題になるのが、エフェクチュエーションの場合、最終的にどういうキルトが出来上がるかが分からないということです。今までにない美しいキルト(革新的なビジネスモデル)が生まれることもあれば、失敗作のキルト(市場に受け入れられないビジネスモデル)が出来上がることもあります。

重要なのは、結果だけで評価しないということだと思います。もちろん結果も重要ですが、プロセスを見ていく必要があります。ユニクロの創業者である柳井さんは「一勝九敗」という著書を出しています。あらたなビジネスの戦略は当たらないことのほうが多いということを示していると思います。また、一橋大学の楠木先生の著書「ストーリーとしての競争戦略」の中でも、戦略が良くてもビジネスとしてはうまくいかないことも多いという趣旨の指摘をされています。

つまり、社内でイノベーションを起こすためには、結果の良し悪しだけでなく、プロセスでその人がどれだけ既存のリソースを理解し活かそうとしたかを軸として評価する視点が必要といえます。

現在、組織の活性化策を打ち出している住友商事。評価の部分は記事からはうかがい知ることはできませんが、ぜひイノベーションが生み出されていくことを、期待して注目していきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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