【freee会計】第3回:27億円の赤字。今後プラスに転じる可能性は?

話題のニュースを「ネットワークの外部性」から読み解く

クラウドの会計ソフトを展開しているフリー(freee)の2021年6月期の連結決算が27億円の赤字で着地したことを、理論で考察する記事の第3回です。

注目ポイントは売上高は49%増の201億円で、有料会員も前の期から30%アップ、約29万件になったことです。

フリーが売上高の伸び以上に、販売促進に投資をし、利用者を増やそうとしているのは明かです。そのフリーの方向性について、ここまで経営戦略のイノベーションのJカーブ曲線、マーケティングのキャブティブ価格戦略の視点から考察してきました。今回は、なぜ、フリーがここまで赤字を出しても販売促進に注力しているのか。今回はネットワークの外部性の観点から検討をしてみます。

ネットワークの外部性とは、同じ商品やサービスを利用するユーザーが増えれば増えるほど、1人のユーザーがその商品やサービスから得られる利便性が高まる現象を表すキーワードです。

例えばSNSを考えてみましょう。LINEが登場し浸透していく過程を思い出してみてください。自分の周りにLINEを使っている人が少ない時期は、あまり利便性が高い連絡手段とは考えていなかった人も、周囲で利用している人が増えるに連れて、便利なツールとして認識していったのではないでしょうか。

このようにユーザーが増えれば増えるほど、ユーザーの便益がダイレクトに高まっていく効果をネットワークの外部性の「直接効果」といいます。

一方で、ユーザー数が増加するほど、その商品やサービスを補完する商品の多様性が増したり、その商品やサービスの価格が低下したりすることで、ユーザーが結果的にメリットを享受することをネットワークの外部性の「間接効果」といいます。

スマホのユーザーが増えることで、使用できるアプリが増加し、結果として便利な機能がたくさん使えるようになったことなどが該当します。

さて、フリーが提供するクラウド会計サービスの場合はどうでしょうか。同じ会計ソフトを使うユーザーが増えた場合、増えたからといってそれだけでサービスそのものの利便性が高まることは、あまり想像できません。つまり、直接効果はそれほどなさそうです。

しかし間接効果はどうでしょうか。弊社では創業支援サービスをおこなっており、実感があるのですが、現在、創業支援と銘打った行政の支援サービスが増加しています。窓口で弁護士、税理士、中小企業診断士などの専門家が相談にのったり、創業準備者に対してセミナーを開催したりしています。

フリーのクラウド会計サービスのユーザーが増えれば、例えば窓口の専門家もチェックし丁寧に説明したり、セミナーで取り上げられたりする機会が増えると想定されます。結果的に、ユーザーはこの会計サービスについて詳しく情報を得る機会が増えることになります。

また、税理士の先生に業務をお願いする場合、その税理士事務所で活用している会計ソフトと連動することが多くなります。フリーのクラウド会計を使用するユーザーが増えれば、税理士の先生の中にも、フリーの会計ソフトをメインツールとして活用する方が出てくるかもしれません。そして、顧問先の中にフリーの会計ソフトを使う事業者が増えるほど、その先生の中に知見が蓄えられ、それがユーザーに還元されるという好循環が生まれる可能性も考えられます。

つまり、あくまでも私見にはなりますがネットワークの外部性の間接効果はある程度、期待できるのではないでしょうか。

その観点から見ても、フリーが売上高の伸びに対して多大な販売促進コストをかけて、ユーザー数を増やすことに注力しているのは、利に適った戦略といえそうです。

とはいえ、既に同様のサービスを提供する事業者が多数登場しており、企業間競争は激しさを増していくことは必至です。

その熾烈な商環境の中、フリーが今後、どのように成長していくかに注目していきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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