話題のニュースを「職務特性モデル」から読み解く
SBクリエテイィブ社が運営する情報プラットフォーム「ビジネス+IT」の2021年5月13日の記事に掲載されている、アマゾンがイギリスのイースト・ロンドン・リバプール駅近くのブラッシュフィールド通りにヘアサロンを展開したことに関する考察の第3回です。
第1回では経営戦略論の視点から、環境変化への適応と最適な資源配分の切り口で、なぜアマゾンがヘアサロンに進出したのかを考えてみました。
第2回ではマーケティング論の視点から、イノベーションの普及曲線の切り口で、理由を考察しました。
今回は、組織論の視点から考えてみたいと思います。アマゾンの意図を探索するというよりは、このヘアサロン進出が組織にどのような効果をもたらす可能性があるかを取り上げたいと思います。
記事にあるとおり、アマゾンがUKヘッドオフィスの近くにヘアサロンを展開するのは、テクノロジーのショールームを作ること、あるいは、まだまだデジタル化によって開拓の余地がある美容業界への足掛かりをつくること。つまり、マーケティングや経営戦略の観点からの意味合いが大きいと思います。
ただ、あくまでも副次的な効果かもしれませんが、組織論の観点からも有効性が考えられます。
例えば、心理学の研究者であるJ.バックマンと経営学研究者のG.オルダムの「職務特性モデル」で考えると、組織に与える効果が見えてきます。
職務特性モデルとは、業務の特性が従業員のモチベーションに対して与える影響を説明する理論の一つです。その影響を5つの中核的な職務特性を用いて説明しています。
①スキルの多様性とモチベーション
これは、従業員はさまざまなスキルを用いて行う業務の方がモチベーションが高まりやすいという考え方です。
②タスク・アイデンティティとモチベーション
従業員は、自分が取り組む職務の全体像を把握し、その職務を完結することがどの程度必要とされるかを分かったほうが、モチベーションが高まりやすいとされています。
③タスクの有意味性とモチベーション
従業員は、自分の職務が、他の人の仕事や生活にどの程度影響を与えるかが分かった方が、モチベーションが高まりやすいとされています。
④自律性とモチベーション
文字通り、裁量が与えられた方がモチベーションが高まりやすいとされています。
⑤フィードバックとモチベーション
職務の結果が、どのように有効に作用したのかの情報が、提供されている方がモチベーションが高いという考え方です。
アマゾンで開発されたテクノロジーは当然、関連するさまざまな企業で生まれることが多いと推察できます。また開発されたテクノロジーは、ビジネスに実装されて世の中のスタンダードになっているものも少なくないでしょう。
それでも、アマゾンで働く従業員が自ら開発の一翼を担い、かつ、注目されるまでに時間がかかるテクノロジーではあります。
今回のように、自らのテクノロジーに対して顧客がどのような反応をするかが見える場ができることは、職務特性モデルの⑤フィードバックに該当します。場合によっては、②のタスク・アイデンティティや、③のタスクの有意味性にもつながる可能性があるのではないでしょうか。
アマゾンは、今のところヘアサロンの店舗数を増やす方針ではないようです。ただ、このような直接、顧客と接点を持てる場は増やしていくのではないでしょうか。
それを実施することで、顧客の反応をテストマーケティングに活用するという面もありますが、職務特性モデルにおける中核的職務特性を満たし、組織を活性化することも可能になります。
自社の従業員の職務が、5つの中核的職務特性を満たしているかどうか?それが、持続的に従業員のモチベーションを維持する、一つのリトマス試験紙になりそうです。
今後とも、アマゾンのヘアサロンの取り組みに注目をしていきたいと思います。
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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。