話題のニュースを「コンティンジェンシー理論」から読み解く
2021年7月15日付けの日本経済新聞に掲載されているアシックス広田社長の記事を興味深く読みました。
アシックスが2021年3月に発売した歩幅を広げる厚底ランニングシューズは、社長直轄のプロジェクトとして、スピードを意識して開発されたそうです。
ライバル企業ナイキに先行されていた厚底ランニングシューズで、東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに反転攻勢をするために社長が肝いりで推進したとのことです。
厚底ランニングシューズ需要については、ドン・キホーテが発売したPB製品「Activegear Foul RUN」を取り上げた本ブログでも触れたとおりです。
今回、興味深いのは記事の中の「危機下で各部門をまとめあげるには『上が決めたことを下に徹底させることが需要だ』」という広田社長のコメントです。
確かに危機下ではトップダウンで迅速に動くことが有効に思えます。一方で、危機下こそボトムアップで多様な意見を取り入れながら環境変化に対応することが大切だという考えもあると思います。
実際に危機下ではどちらが有効なのでしょうか?
現実には社内外の状況で変わるでしょう。ただ、ヒントは組織論の理論から得ることができます。
フィードラーが提唱したコンティンジェンシー理論の一環で、リーダーが置かれている環境と有効なリーダーシップについて触れています。
具体的には、リーダーが置かれている環境が有利な状態か、やや有利な状態か、あるいは不利な状態かによって、業績に有効なリーダーシップは変わると論じています。
そしてこの研究ではリーダーシップのスタイルを、人間関係志向型リーダーと、課題達成志向型リーダーに区分しています。
フィードラーによると、好業績につながる組み合わせは下記のとおりです。
①リーダーが置かれている環境が有利な時 → 課題達成志向型のリーダーシップ
②リーダーが置かれている環境がやや有利な時 → 人間関係志向型のリーダーシップ
③リーダーが置かれている環境が不利な時 → 課題達成志向型のリーダーシップ
ここでいう環境の有利、不利は、安定しているか不安定かに置き換えることができます。
つまり、環境が極端に安定している時は課題達成志向型、やや安定している時は人間関係志向型、不安定な時は課題達成志向型のリーダーシップが有効ということになります。
記事にもあるとおり、アシックスにとって現在は危機下。環境はきわめて不安定といえるでしょう。
そして、「上が決めたことを下に徹底させる」という考え方は、課題達成志向型リーダーシップの視点です。
つまり、広田社長の「危機下で各部門をまとめあげるには『上が決めたことを下に徹底させることが需要だ』」という発想は、フィードラーのコンティンジェンシー理論に照らし合わせると、理にかなっていることになります。
もちろん、フィードラーの研究はあくまでも限られた実験データに基づいており、一つの切り口といえるでしょう。
しかし経営者にとって、仮説を立てる時の示唆になることは確かです。
フィードラーのコンティンジェンシー理論にも裏打ちされたリーダーシップを発揮する広田社長のもとアシックスがどのような攻勢にでるのか、注目をしていきたいと思います。
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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。