【小売業の動向】米国でミニ店舗の出店が相次ぐ理由

話題のニュースを「5つの競争要因」から読み解く

2021年7月4日付けの日本経済新聞のオンライン記事で、アメリカの小売業でミニ店舗の出店が加速していることを取り上げていました。

化粧品チェーンの「セフォラ」は、2023年をめどにデパート大手である「コールズ」の全店舗の約7割に当たる850店舗に、ミニ店舗を出店することを発表しています。

また、ディスカウントストア大手の「ターゲット」は、アメリカの「アップル」と連携し、2021年中にテキサス州やフロリダ州などの17店の店内に、アップルのミニストアを開店する予定とのことです。

さらに、フィットネス機器を販売する「TONAL」は、高級百貨店のノードストロームと提携し、2021年7月1日までに、カリフォルニア州の店舗を含むノードストローム40店舗に、小型店をオープンしています。

従来、アメリカは日本に比べて大型店を志向する傾向が高いといえます。デパートメントストアのメーシーズは1902年には9階建ての大型商業施設として存在しており、世界売上高ナンバーワンを誇るウォルマートが、広大な面積に食料品、衣料品、日用雑貨などを一同に陳列し販売するスーパーセンターという業態を生み出したことも周知の事実です。

当然、テナントも巨大な商業施設の中で大きな店舗面積を割いて、より多くのアイテムを来店するお客様に提供するスタイルが一般的でした。

それでは、現在、なぜミニ店舗の出店が加速しているのでしょうか。

当該記事では、背景として、EC(電子商取引)が普及し、各社とも自店舗とオンラインの融合で集客を高めようとする狙いがあると論じています。

この見解に、M.ポーターが提唱した「5つの競争要因」のフレームワークをかけ合わせて、考えてみたいと思います。

アメリカの経営学者、M.ポーターは、企業を取り巻いている業界内の競争環境が、企業の収益性や戦略に影響を与えることを明示しています。

ポイントは、ここでいう業界内の競合環境とは、単に既存企業どうしの競争ではなく、業界への新規参入者、業界の製品やサービスの代替品、業界内の企業から商品やサービスを購入する買い手、業界内に資材や商品を共有する売り手との競争にも気を配る必要があるとしていることです。

この5つの競争要因(Five Forces)が、企業が存立する業界の構造及び、その業界内の競争の性質を決めると論じているのです。

では、今回、記事で取り上げられている小型店を出店する「セフォラ」「アップル」「TONAL」の競争環境を当てはめてみるとどうでしょうか。

あくまでも私見ではありますが、セフォラが属する化粧品業界は、韓国のK-beautyを中心とした海外からの進出が増えており、Fice Forceで新規参入業者の脅威が高まっていそうです。

また、アップルはもちろん独自の立ち位置を築いているものの、取り扱い製品における既存事業者であるIT業界の巨人Googleと激しい戦い繰り広げている真っ最中といえるでしょう。

TONALが属するアメリカフィットネス業界ではどうでしょうか。2015年に設立され成長を続けている、TONAL自体が新規参入業者といえるでしょう。当社では、AIと専門家スタッフを使ったコーチングを導入していることが売りのようです。

それぞれ激しい競争環境に陥っている各業界において、なぜ、ミニ店舗化が進んでいるのか。月並みではありますが、やはり顧客との近接性を意識してのことでしょう。

特にどの業界でもコロナを機にEC需要が伸びました。ECとリアルの融合がうまくいくのかは不明瞭です。ただし、ECに慣れ親しんだ消費者は、これまでのように自らが遠くまで出向くことに心理的な抵抗を感じる可能性があります。

インターネットで話題の化粧品ブランドをECサイトで購入する。Googleの各機能と親和性が高い機器をECサイトで自動的に買う。オンラインでフィットネスを行い、そのオンライン上で紹介されている機器を購入するなど、新型コロナウィルス感染症拡大の余波もあいまって、EC需要が加速しようとしているのかもしれません。

つまり、かつてのように、大きな店舗で遠くから消費者を誘引するスタイルが馴染まなくなりつつあり、店舗からそれぞれの地域の顧客に寄り添っていくスタンスが、アメリカでも求められるようになってきているのではないでしょうか。

これを先ほどのFive Forceに当てはめて考えるならば、実は、各業界とも常にECで絶大な認知を持つブランドがでてくるかもしれないという見えざる新規参入業者の脅威に悩まされており、結果的に、各企業のミニストア化が進んでいるという点も、あくまでも要因の一つとしてではありますが、あげられそうです。

店舗を軸足に考えると、ECの進展に伴い、リアル店舗が求められる役割に変化が求められることは想像に難くありません。その中で、メーカーのインターフェースとしての役割は今も健在であることが、このミニ店舗化の加速から読み取れます。

アメリカのミニ店舗化がこのまま加速するのか。そして、リアル店舗の役割はどう変わっていくのか。更に注意深く、注視していく必要があります。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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