【三菱航空機】912億円の赤字。ピンチを切り抜ける方法とは?

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2021年7月1日付けの日本経済新聞で、三菱重工業傘下である三菱航空機の2021年3月期の決算について、最終損益が912億円の赤字だったことが取り上げられていました。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響をダイレクトに受けた航空産業。

もちろん各社とも企業努力をしています。現に、三菱航空機においても前の期の赤字は5269億円でしたが、今回は赤字幅が大幅に減りました。これは、民間旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発の事実上の凍結で開発コストが下がったことが大きな要因の一つとのことです。

しかし、同社では負債が資産を上回る債務超過額が2020年3月末の4646億円から、2021年3月末は5559億円へと増幅。まさに正念場を迎えているといえます。

もちろん、前述のとおり、日夜、懸命な企業努力がなされていることでしょう。しかし、それ以上に環境変化が速く激しすぎるために、その努力だけでは結果が好転しない状態になっています。

このような時に経営層は、何に取り組むべきでしょうか?

ヒントになるのは、富士フィルムの事例です。今回のようなパンデミックではありませんでしたが、2000年代に富士フィルムも大きな環境変化に直面しました。基幹事業の一つであるフィルム事業の商環境が劇的に変わったのです。具体的には、デジタルカメラ、携帯電話カメラの台頭によって、フィルムの売上高がみるみる低下していきました。

その際に、富士フィルムが化粧品事業に乗り出し成功した事例は、経営戦略の授業やマーケティングの授業で、必ず取り上げられるといっても過言ではないほど有名です。

化粧品事業に乗り出した理由はいくつもあると思いますが、当時の経営陣へのインタビューや、当時を振り返った検証記事を読んで見えてくるのは、危機に直面した際にまず最初に腰を据えて「強みの棚卸」に着手したことが、勝因であるということです。

結果として、やっぱり富士フィルムの強みは、長年かけて、基礎研究や応用研究を通して培ってきたフィルム技術である。そして、新たな技術を生み出す能力。それに尽きるということが、社内で共有されたそうです。

現にフィルム技術で培ったナノテクノロジーやコラーゲン技術、分子合成技術などが、化粧品事業に応用され、ナノアスタキサンチンといううるおい成分の製品化に成功し、アンチエージングに軸足をおいたアスタリフトというブランドが誕生したのです。

この富士フィルムの一連の流れから見えてくる教訓を、あえて単純化するならば、苦境に陥った時ほど、自らの強みを信じて進むべきということではないでしょうか。

くしくも経営学の領域でも、G.ハメルとC.プラハラードが「コア・コンピタンス経営」を提唱し、市民権を得ています。コア・コンピタンス経営については、以前にもこのブログで取り上げました。コア・コンピタンスとは、「顧客に対して、他社には、まねをすることのできない自社固有の価値を提供する、その企業独自の中核的な技術やスキルの束」を意味します。そして、コア・コンピタンスは、「各企業で何十年にもわたって蓄積され、新事業や新製品開発の成否を担ってきた固有技術や知的資産のこと」でもあります。

抗いようのない外部環境の脅威にさらされた時ほど、自社の何十年にもわたって蓄積されてきた技術や資産が何かを冷静に分析し、打開策を見つけることが、何よりも大切なのではないでしょうか。

現在、三菱航空機が置かれている状況も然りです。ワクチンによって、劇的に人々のマインドが回復し、世界的に飛行機が使われる世の中になり、事業がコロナ前に戻れば問題ありません。それをグッドシナリオとするならば、コロナが長引いたことで人々の航空機需要が減退してしまい、既存の航空機事業の外部環境が好転しないというバッドシナリオも考えられます。

バッドシナリオへの対策として、自社のコア・コンピタンスは何かを見極めたうえで、新たな産業に打って出る。経営戦略論の観点で見ると、これは避けては通れない道といえます。まさに三菱航空機が培ってきたものの真価が問われているといっても過言ではないでしょう。

このような観点から、今後の三菱航空機の動きに注目をし続けたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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