話題のニュースを「30の価値要素」から読み解く
2021年5月28日付けの日経新聞のオンライン上で、アメリカの動画配信大手である Netflix とセレクトショップの BEAMS がコラボ商品を展開することが取り上げられていました。
記事によると、コラボレーションの商品は T シャツなど20アイテムに及び、BEAMS の公式ネット通販で販売開始され、その後順次各店舗で展開していくそうです。また6月以降は北米を中心に海外でも販売する予定とのことです。
なお Netflix がブランドとして商品を展開するのは、この BEAMS とのコラボレーションが初めてということです。
なぜ Netflix は BEAMS とのコラボレーションを展開する意思決定をしたのでしょうか。
今回は、その理由について Harvard Business review の紙面でも紹介されたアルムキストの顧客が欲しいと思う30の価値要素のジャーナルから紐解いてみたいと思います。
このジャーナルでは著者が消費者アンケートをベースに要素分解した30の価値要素が紹介されています。
活用とは、例えば品質やバラエティといった機能的なものから、健康や懐かしさと言った感情的なもの、さらには希望の創出や自己実現といった人生の変化に関するものなど多岐にわたっています。
企業は価値を提供すべきだというのは、現在のマーケティングにおける主要な命題と言えます。一方で実務面で考えると、価値とは一体何か、それを説明するのは簡単ではありません。
この30の価値要素は、まさに説明が難しい価値をあえて種類として分類することで可視化しやすくしているという利点があります。
このジャーナルの中で Netflix がアメリカの消費者から見て、従来のテレビ局との比較で高く評価された価値要素として、バラエティ、コスト削減、癒し、懐かしさがあるとされています。
テレビ局よりも豊富なコンテンツを配信しているためバラエティが提供されており、サブスクリプションであるためコスト削減の要素もあります。また気分転換に動画を視聴するという人も多いため、癒しの要素があるというのも頷けます。
非常に面白いと感じたのが懐かしさです。動画作品を見るということは、その当時の自分自身が置かれている状況や感情を思い出すトリガーになると言っていいでしょう。
また各動画作品に出てくるシチュエーションやファッション、小物などからその当時の時代背景を覗き見ることができることも、懐かしさに繋がっているのではないでしょうか。
この懐かしさという視点に目を向けるとビームスとコラボした理由が見えてきます。
BEAMS の企業理念として以下のようなものがあります。
我々BEAMSはモノを通して文化をつくる“カルチャーショップ”を目指しています。即ち、モノを手に入れた満足感の先にある、そのモノが生まれた背景や時代性といったことを含む情報を共有することで、物質的満足以上の価値を提供するということです(出典:ビームスHP)。
この企業理念から、ビームスは物を売るのではなく、その時代背景の感覚や雰囲気を売っているということがわかります。
BEAMS でかつてのファッショントレンドをベースにしたような新商品が生まれるのもこのあたりに理由があるのではないでしょうか。
言い換えるとBEAMSが提供している価値の中に、その当時のファッションをテーマに新商品を展開することで当時の時代背景を覗き見る、つまり懐かしさを提供するという側面があるのではないでしょうか。
Netflix と BEAMS。業界もビジネスモデルも違い、一見すると関連が薄そうに見える2社ですが、あくまでも私の主観的な見解として、実は提供価値に懐かしさを含むという共通要素があるように感じます。
同じ価値要素を提供する企業がコラボレーションすることによってそれぞれが提供している価値の魅力を増幅する効果があると考えます。
このように、それぞれの企業が提供している価値を可視化することによって効果的なコラボレーションに発展する可能性が高まるのではないでしょうか。
この二社の取り組みに注目をしていきたいと思います。
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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。