【Lブランズ】企業の分社化から見えるアパレル業界の未来

話題のニュースを「範囲の経済」から読み解く

2021年5月11日、アメリカのアパレル大手であるLブランズが、傘下の「ヴィクトリアズ・シークレット」の分社化を発表しました。同ニュースを伝える日本経済新聞によると、8月までに手続きを完了する見込みとのことです。

ヴィクトリアズ・シークレットは、女性向けランジェリーのブランドです。渦中のLブランズは、オハイオ州に本社を置き、主に女性向けアパレルとパーソナルケア用品を販売しています。

「ヴィクトリアズ・シークレット」「ラ・センザ」などのブランドで女性向けランジェリー、衣料を、「バス・アンド・ボディ・ワークス」で美容・パーソナルケア用品、アロマ製品などを取り扱っています。Lブランズは、アメリカをはじめ、隣接するカナダやイギリスに店舗を展開しています。

記事によると、比較的、業績が堅調なバス・アンド・ボディー・ワークスの分社化を計画しつつ、不調のヴィクトリアズ・シークレットの売却先を探していたようですが、どの企業とも最終合意には至らず、分社化を選んだそうです。

Lブランズのサラ・ナッシュ取締役会長は「(2つのブランドが)個別事業として成長戦略を追求することが最も株主利益をもたらすことになる」と声明で述べたそうです。

この言葉はやや苦し紛れの感もありますが、なぜ個別事業になるという判断をしたのか。この点について、「範囲の経済」の概念で考察してみたいと思います。

範囲の経済が働いている状態とは、別々の事業で製品を生産・販売する場合の総費用の合計よりも、別々の事業の製品を同時に生産・販売したほうが総費用が少なくなり、効率がよい状態のことを表します。

範囲の経済は、共通利用可能な資源の有効活用から生まれるといわれています。

女性向けランジェリーの「ヴィクトリアズ・シークレット」と、美容・パーソナルケア用品の「バス・アンド・ボディ・ワークス」。

個別事業の成長戦略を占うカギの一つは、この2ブランドで範囲の経済が働いていたかどうかです。

筆者は、海外のランジェリーや美容・パーソナルケア用品の消費者行動は詳しくありませんが、仮にターゲット顧客が一緒だとしても、ランジェリーとパーソナルケア用品の同時購入の場など、マーケティング上の共通利用できる経営資源が豊富にあるかといえば、疑問符がつきます。

もちろん、企業の分社化は範囲の経済というコスト面の有利・不利という一面から評価することはできません。それでも、範囲の経済が働いていなかったならば、2つの事業を分けて、それぞれをプロフィット単位(利益を追及する事業体)としての要素を強め、特徴を打ち出していこうとする戦略は、合理性があるように感じます。

コングロマリットなどで大型化が進んできたアパレル業界ですが、あえて分社化をし、それぞれの利益やコストを見える化することが、個別のブランドの魅力を高めることに寄与するならば、苦戦を続ける業界が浮上する一つの成功事例になるかもしれいません。

分社化したヴィクトリアズ・シークレットが、どのような訴求をしていくのか。注目をしていきたいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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