【Amazon】第2回:総額10億ドル超え。従業員50万人の時給引き上げ理由を考察

話題のニュースを「PEST分析:経済的環境(Economy)」から読み解く

2021年4月29日に日経新聞に掲載されていた「Amazon、米従業員50万人の時給引き上げ 最大3ドル」の記事をベースに、アマゾンの動きを外部環境分析の代表的手法であるPEST分析で考えます。

記事によると、4月28日にアメリカのアマゾン・ドット・コムがアメリカ国内で働く50万人を超える従業員(インターネット通販の受注や配送、荷物の仕分けなどを担う人材が対象)について、50セントから3ドルにかけて時給アップを発表しました。従来、秋に行っていた賃上げを5月中旬から6月上旬に前倒しして、実施するとのこと。賃上げに伴う費用は10億ドルを超えます。

なぜ、この時期にこれほどの費用をかけて賃上げに踏み切ったのでしょうか。

この背景について、PEST分析で考察します。

PEST分析はマクロ環境を多角的に見るための手法として有名です。具体的には、政治的環境(Politics)、経済的環境(Economy)、社会的環境(Society)、技術的環境(Technology)の4つの側面からマクロ環境を把握することで、経営の意思決定に活かします。

前回のブログでは、政治的環境(Politics)をもとに、今回のアマゾンの取り組みの背景を考察しました。今回は、経済的環境(Economy)について詳しく取り上げ、アマゾンの意思決定の理由を検討します。

Economyは、景気、価格変動、貯蓄率、金利、為替など経済状況に関する全般の環境を指します。

最近のアメリカ経済に関する記事と概要は以下のとおりです。

①「4月の米消費者態度指数、3.4ポイント上昇 確報値」4/30

アメリカのミシガン大学は、4月30日に4月の消費者態度指数(確報値)を発表した。前月から3.4ポイント上昇し、88.3となった。これは2カ月連続の上昇で、2020年3月以来1年1カ月ぶりの高水準である。

②「ワクチン、消費を再起動 米英でレジャー・外食回復」4/30

接種が進む米国やイスラエルでは、給付金などの個人マネーが消費に向かい始め、レジャー消費や外食消費がコロナ前の水準に近づいている。

③「ハネムーン後に残った8000億ドルの重荷(NY特急便)」5/1

バイデン政権最初の100日「ハネムーン期間」で、株式相場が大幅に上昇した。バイデン大統領の就任100日に当たる4月29日までにS&P500種株価指数が11%上昇した。これはトランプ前大統領の就任後100日間の5%を上回る数値であり、米メディアによると、米国を世界恐慌から回復させた1933年のニューディール政策を講じたフランクリン・ルーズベルト元大統領以来の大きさとのこと。

アメリカの経済が回復基調にあることは間違いないでしょう。一方で、この回復が長期的なものになるかは議論が分かれるところです。

ただ、アメリカの中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会は、3月17日まで開いた金融政策を決める会合で、ゼロ金利政策は2023年末まで続くという見通しを維持しました。

くしくも、コロナによってリモートワークが世界的に浸透した現在、アマゾンを含めたGAFAやMicrosoftの好調が、アメリカ経済を牽引することは想像に難くありません。

筆者は経済の専門家ではありませんが、ゼロ金利政策による市場への貨幣の流出、そしてそれを受け入れる市場におけるコロナを追い風に好調を維持するグローバル産業の存在、そして前述のとおり消費マインドが高まっていくのであれば、アメリカ経済の好調は続くと考えられるのではないでしょうか。

翻ってアマゾンの視点からこの経済状況を見るとどうでしょうか。

経済が回復基調にあること自体は、アマゾンにとってプラス要因になることは間違いないでしょう。一方で、コロナ禍においては、外出自粛がありインターネットを通した消費が促進されましたが、今後はレジャーや外食が好調になると業種間競争が激化することが考えられます。

それに備えて、アマゾンがビジネスモデルの生命線ともいえる物流センターのインターネット通販の受注や配送、荷物の仕分けなどを担う人材を対象に賃上げをして、従業員の会社離れを防ごうとすることは、経営戦略上、理にかなっているといえるのではないでしょうか。

5セントから3ドルの時給アップが、どの程度、従業員の帰属意識を高めたり、会社離れを防いだりするかという点は、疑問符が残ります。

しかし、いよいよライバルであるレジャー産業や外食産業がのぼり調子になるタイミングで、手を売ったタイミングは絶妙といえます。同じ額の賃上げでも、タイミング次第で効果が大きくなったり、小さくなったりします。

今回のアマゾンの取り組みは、先日のジェフ・ベゾス氏の「地球上で最高の雇用主」を目指すという意思表明とあいまって、一定程度、会社への帰属意識アップに寄与するのではないでしょうか。

今回は、前回に引き続き、アマゾンが5~6月に従業員の時給を引き上げることについて、PEST分析のEconomyの切り口を確認しました。

なぜ、この時期にこれほどの費用をかけて賃上げに踏み切ったのでしょうか。

次回のブログでは、PESTの3つめの切り口、社会的環境(Society)で検討します。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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