【トヨタ】米自動運転部門を買収。テスラを追撃できるのか?

話題のニュースを「経営資源戦略の垂直統合」から読み解く

2021年4月27日付けの日経新聞オンラインで、トヨタ自動車がアメリカのリフトの自動運転部門を買収するという記事がありました。自動車業界が自動運転技術に移行していくことは自明の理であり、そこに強い事業部を買収するのは当然の戦略的意思決定といえます。

自動運転技術といえばテスラが先行しています。トヨタ自動車はテスラを追撃するかたちになります。

今回はこのトヨタ自動車の自動運転部門の買収について経営資源戦略における垂直統合の観点から考察します。

垂直統合とは、生産・流通・販売・サービスといった一連の垂直的に関連した機能を企業内に取り込むことです。

企業が垂直統合度を高くする際に、製品やサービスの最終顧客と、よりダイレクトに接触する方向に進む場合を前方垂直統合、製品やサービスの最終顧客から遠ざかる方向に進む場合を後方垂直統合といいます。

トヨタ自動車の自動運転部門の買収は、完成品の前、つまり最終顧客から遠ざかる方向に進んでいるため後方垂直統合です。

このように、垂直統合に踏み切る一般的な狙いは、生産・流通・販売・サービスといった一連の垂直的に関連した機能を企業内に取り込み、品質向上やコスト削減などのメリットを教授することです。一方で、垂直統合には投資に見合った効果がでず、長期的に経営を圧迫するというデメリットも考えられます。そのため、生産・流通・販売・サービスを拡張する際には、垂直統合以外に、契約による統合や、系列化など、同一資本にならずにコントロールをする手法も存在します。

そのような中、なぜトヨタ自動車は後方統合を図ったのでしょうか。

もちろん、自動運転に本格的に舵を切っていることの証左と見ることができます。私見にはなりますが、それよりも大きな理由として、トヨタ自動車のコア・コンピタンスにヒントがあると考えます。

コア・コンピタンスとは、プラハラードとハメルが提示した概念で、顧客に対して、他社には、まねをすることのできない自社固有の価値を提供する、その企業独自の中核的な技術やスキルの束を意味します。

トヨタ自動車のコア・コンピタンスとして、真っ先に思い当たるのが、トヨタ生産方式の存在です。徹底的に無駄を排除し、必要な量を必要な時に提供することを可能にしたジャストインタイムの概念が有名です。

ジャストインタイムの構成要素の一つに、タクトタイムがあげられます。これは、すべての工程、同じタイミング、同じタームで、製品を加工していく方式を指します。それによって、各工程が遅れたり、手待ち状態になることなく、円滑で迅速な製造を可能にしています。

このタクトタイムの概念は、言うは易し行うは難しです。自動運転技術を搭載した自動車も、このジャストインタイムを遵守するならば、自動運転部門はより阿吽の呼吸で、取り組む必要があります。そのため、別資本で契約を結ぶというかたちではなく、買収して同一資本にする必要があったのではないでしょうか。

テスラが先行する自動運転技術分野。トヨタ自動車がどのような戦略で巻き返すのか。多くの経営者にとって目が離せない業界変動がすぐそこにやってきています。

おススメ記事はこちら↓

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

講演のご依頼・お問合せはこちら