【三越伊勢丹】第3回:営業損益が大手3社で最も打撃を受けている理由を考察

話題のニュースを「経営資源の情報的資源」から読み解く

前回、前々回と取り上げている、4月19日付けの日経新聞オンラインの記事。今回も「三越伊勢丹が付加価値額を減らしている理由」を、経営資源戦略の視点で考えます。

同記事では、企業の付加価値額について、営業利益に減価償却費とマーケティング人材の人件費を加算したものとみなし、百貨店の大手企業と三越伊勢丹を比較して三越伊勢丹の現在地を説明しています。

これまで経営資源のうち、人的資源、物的資源、資金的資源の三つについて取り上げ、今回の記事をもとに、三越伊勢丹の状況を考察してきました。今回は最後の情報的資源について取り上げます。

情報的資源とは、知識情報と企業情報に大別されます。

知識情報は、市場や技術について企業の日常活動を通じて得られるものです。これは、企業活動における仕事の手順や顧客の特徴のように、日常の企業活動を通じて、経験的な効果として蓄積されます。企業活動における熟練やノウハウなどは、設計図やマニュアルのように言語や数値化されている情報よりも、模倣困難性が高いといわれています。つまり、ノウハウのような情報的資源は、その特殊性が高いほど企業に競争優位をもたらす源泉となり得ます。

企業情報は、ブランド・イメージや企業の信用など、企業に関する良い情報を、企業を取り巻く利害関係者が持っていることであり、差別的な価値をもたらしてくれます。企業のブランドのような情報的資源も、その特殊性が高いほど企業に競争優位をもたらす源泉となるのです。情報的資源には、他の経営資源(人的資源、物的資源、資金的資源)と大きな違いがあるといわれています。

一つは、 学習により自然に蓄積していくことです。情報的資源は、経営戦略の実行により、実際の経営活動の中で経験として自然に蓄積されますが、他の経営資源は自然には蓄積されません。

二つ目は、多重利用が可能であることです。情報や知識は使用しても減少しない資源です。そのため、ある分野での仕事を通じて蓄積されたノウハウを、他の事業分野で活用することが可能です。他の経営資源にはない特徴といえます。

三つ目は、 消去するのが困難なことです。経験として蓄積されたノウハウを意識的に消去することは困難です。他の資源ならば、物的資源は廃棄でき、人的資源も解雇できます。もちろん、資金的資源は使い切ることが可能です。

これらを踏まえた上で百貨店の情報的資源について考えてみましょう。

百貨店の積み上げてきた知識情報は、やはりその百貨という名前が表しているように様々な商品やブランドを選定してお客様に提案するスキルに尽きると思います。企業情報は、何と言っても一定の年齢以上に根強く定着している百貨店=上質と言うブランドイメージでしょう。実際に同じ商品を購入するなら、その百貨店の紙袋でという消費者は今も多数存在しています。

今の百貨店の課題はこの本来武器であるはずの知識情報や企業情報といった情報的資源がどんどん損なわれていることではないでしょうか。

近年、テナントに品揃えや接客を任せる消化仕入が増えたことで、百貨店が本来もつこの良い商品を選んでお客様に提案するというノウハウが希薄になっていそうです。また、ブランドイメージについては現在の若年層から中年層にかけて、どんどん希薄になっていて、百貨店としても課題に捉えている点です。

これらの情報的資源は前述の通り蓄積型の資源ですが、一朝一夕で増加させることはできません。失われてきているこれらの情報資源は、企業努力によって補っていくしか増やす方法はないということです。情報的資源は、具体的な増やし方が他の資源と違って見えにくいという特徴もあります。百貨店が前述の武器となる知識情報や企業情報を蓄積するためには、マーケティング人材の活躍が不可欠といえます。

今回の記事で、付加価値額にマーケティング人材の人件費を組み込んでいる点は非常に秀逸だと思います。経営資源として持続的な競争優位の源泉となりうる情報的資源を増やすには、マーケティング人材への投資が不可欠だと考えられるからです。この部分への投資を怠れば、当然業績が苦境に陥ってもおかしくはありません。

この情報的資源の観点において、マーケティング人材の人件費が減少しているとすれば、三越伊勢丹の付加価値額が減少していることは、望ましい状態とは言えないでしょう。

さて、ここまで3回にわたり人的資源、物的資源、資金的資源、情報的資源の活用という点から三越伊勢丹の付加価値額減少の問題点を見てきました。

しかし別の見方をすればこの付加価値減少が必ずしもマイナスに働かない場合が考えられます。それはどのような場合でしょうか。

次回のブログでは、伊勢丹三越の付加価値額減少がマイナスに働かないケースについて、考察します。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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