【三越伊勢丹】第2回:営業損益が大手3社で最も打撃を受けている理由を考察

話題のニュースを「経営資源の資金的資源」から読み解く

今回は前回に引き続き、4月19日付けの日経新聞オンラインの三越伊勢丹の記事を取り上げながら考察を進めていきます。同記事によると、三越伊勢丹の付加価値額が減少しており、それが大手3社の中でも三越伊勢丹が苦境に陥っている一因としています。

企業の付加価値額を測る指標は様々な算出方法があると認識していますが、同記事では営業利益に加え減価償却費、そしてマーケティング人材の人件費で算出しています。前回は、この三越伊勢丹の付加価値額が減少しているという点が、どのように経営に影響を及ぼしているのか戦略論学者のバーニーの経営資源という概念を使って考察しました。

経営資源には、一般的に人的資源、物的資源、資金的資源、情報的資源の四つがあると言われています。 前回のブログでは、人的資源と物的資源に焦点を当てて論じました。

今回は資金的資源に焦点を当てて考えてみたいと思います。

資金的資源とは、企業が戦略を構想し実行していく上で必要となる様々な金銭的な資源です。資金はもちろん借入金や担保信用力など資金を調達するのに必要な要素も資金的資源と捉えられます。資金的資源は多いに越したことはありませんが、他の資源と同様有限です。

環境変化に対応して生き残っていくためには、限られた資金的資源をどのタイミングで何に投入するかが重要になります。

一般的な小売業のセオリーでは、リッチ産業で、かつ設備産業とも言える小売業では、一定の期間ごとに店舗を改装するなどの買い物環境を新しくするために資金を投入することで、お客様からの支持を継続したり、増やしたりすることができると考えられています。

お客様に飽きられる前に、より魅力的な売り場を構築するために、資金的資源をいかに計画的に活用できるかがポイントということです。ところが、記事でも取り上げられているように、三越伊勢丹は地方の不採算店の閉店など、店舗のリスト等を推進してきたものの、旗艦店である日本橋店や銀座店、新宿店に対する資金的な投資が進まなかった印象です。

記事にもある高島屋が、日本橋にこれまでの店舗をリニューアルすることに加え、新たに新館ショッピングセンターを建てて、街ぐるみの再開発を行ったのとは対照的です。

固定資産への投資が増えないために、減価償却費が小さくなり、付加価値額も減少していると考えられます。もちろん、固定資産に資金的資源を投資することは大きなリスクを伴います。

また、このように新型コロナウイルス感染症拡大の局面で、百貨店で取り扱う多くの嗜好品の売り上げが高まることが見込めない中では、高島屋が行ったような大型の投資がかえって経営を逼迫する可能性も拭えません。

ただ主観にはなりますが、なぜ小売業が定期的に店舗のリニューアルを行った方が売り上げが伸びるのかを考えてみると、消費者は目新しさはもちろん、新たな店舗の投資に対する取り組みから、その企業の売り場や小売に対するこだわりや姿勢を感じ取っているのではないでしょうか。

新型コロナウイルス感染症拡大で消費が停滞すると思われる局面ですが、このような時こそ次の資金的投資に向けた構想を練る機会だと思います。今後の三越伊勢丹の動きに注目をしたいと思います。

次回のブログでは、経営資源のうち最後の情報的資源について詳しく掘り下げて考えてみたいと思います。

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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