【マイクロソフト】本格化する音声認識市場で優位な戦いができるか?

話題のニュースを「ネットワークの外部性」から読み解く

Microsoft がアメリカの音声認識大手企業、ニュアンス・コミュニケーションズを1.7兆円で買収する動きを見せているというニュースが日経新聞オンライン4月12日の記事に掲載されていました。ニュアンス・コミュニケーションズは、 Microsoft とかねてより提携関係にあり、 Google にも音声認識の基幹技術を提供しているAIを使った音声認識の老舗企業です。音声認識の進化は日進月歩であり、その質は年々、高まっています。

Microsoft は、言うまでもなくWindowsのオペレーションシステムによって、一躍IT業界の主役になりました。 一方で、近年はGAFAと呼ばれる Google Amazon Facebook Appleといった企業に、イノベーションで後塵を拝している印象が否めません。そして、今後起こりうるイノベーションの筆頭といえば、音声認識による翻訳技術の本格的なリリースしょう。Google 翻訳の精度向上によって、今後音声認識が本格的にリリースされることで、英語で話した内容を即時に日本語に通訳したり、日本語で話した内容が即時に英語で通訳されたりすると言われています。経営学者の中にはインターネットが普及した時と同じぐらい大きなイノベーションが、この5年以内に起こりうると提唱している人もいます。

この本格化する音声認識市場で、果たして Microsoft は有利な戦いを展開できるでしょうか。今回はネットワークの外部性の切り口から考察をしてみます。

ネットワークの外部性とは、ネットワーク型のサービスにおいて加入者が増加するほど一人の利用者の便益が増加する現象です。競合よりも早期にユーザー数を増やすことで、競争優位を獲得しやすくなると言われています。ネットワークの外部性の直接的な効果としては、ユーザー数が増加するほど品質や利便性などの便益が高まりやすいということです。

間接的な効果としては、ユーザー数が増加するほど補完財の多様性が増大したり、価格が低下したりすることでユーザーの便益が結果的に増加するというものです。ちなみにイノベーションは、一番初めにドミナントデザインを確立した企業が有利と言われています。今回の音声認識市場に当てはめるならば、音声認識そのもののドミナントデザインのはやはり Googleが有利でしょう。音声認識については、 Google 以外にも Apple の Siri や Amazon の Alexa などがしのぎを削っています。しかし、Google が長年にわたって仕掛けてきた Google 検索機能やGmail、youtubeの浸透から、ネットワークの外部性が働くと考えられます。Gmailで英語のメールを送る時に音声入力を利用したり、YouTubeとリンクして海外の動画を即時に日本語で聴講するなど、音声認識の利用者が増えれば増えるほど Google がさらに技術的に先行することが予測されます。つまり、音声認識についてのドミナントデザインについては Google に軍配が上がりそうです。

ここで Microsoft にとっての脅威が、 Google の音声認識がドキュメント作成領域でもドミナントデザインになることです。OSについては、長年にわたりマイクロソフトと Apple がライバル関係にあり、依然として Microsoft が優勢です。その一つの原動力になっているのがやはり Microsoft Office の存在でしょう。著者は海外事情には詳しくないですが、少なくとも日本では Microsoft Office がドキュメント作成のスタンダードになっており、利用者が多いため、他の利用者も利用するというネットワークの外部性の効果を享受していると言えます。著者もコンサルティングを行う際に、やはりまだMicrosoft Office を使っている企業が多く、クライアント先への提供資料の体裁ズレなどのリスクを避けるために、 Microsof officeを使用しており、自然とWindows OSを活用しています。

今回のイノベーションによって、音声入力だけで質の高いドキュメントが作れるそのようなソフトやサービスが、 GoogleやApple から展開されるならば、日本においても数十年ぶりにドキュメント作成の領域でリーダー企業の入れ替えが行われるかもしれません。そして、それが OS 選択の意思決定まで及ぶようであれば Microsoft にとって脅威になるでしょう。 Microsoft にとってそれを阻止する手段としては Google によって音声入力が当たり前になる世の中に備えて、音声入力によるドキュメント作成の領域で先行することでしょう、

まさに、「音声入力によるドキュメント作成のドミナントデザイン」をマイクロソフトが構築する必要があります。私見にはなりますが、今回の買収についてはまさにその領域に本格的に踏み込むための布石と言えるのではないでしょうか。Microsoft が有利な戦いを展開するためには、現在有しているネットワークの外部性を活かして品質向上を図るために、その点にリソースを重点投入することが肝要です。

この20年間で、インターネット、携帯電話、スマートフォンなど、世の中を変える大きなイノベーショを経験してきました。そして、これから起こりうる新たなイノベーションに胸を躍らせながら、Microsoftの取り組みに注目をしていきたいと思います。

おススメの記事はこちら↓
【経営戦略を事例で解説】これがビジネスの世界~経営者はこんな風に意思決定をする~
「経営における意思決定」の視点で考察した記事です。併せてチェックしてみてください。

岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)
経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

講演のご依頼・お問合せはこちら