【ローソン&セブンイレブン】コロナ禍で明暗が分かれた2社を比較

話題のニュースを「SWOT分析」で読み解く

ローソンの2021年2月期の決算が発表されました。営業純利益が前期比57%減少しました。コンビニ各社は、新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛の影響で、苦戦を強いられています。そのような中、ローソンは従来の予想よりも損益の減少幅が36億円ほど縮小するそうです。理由として挙げられるのが、運営するユナイテッドシネマの収益が予想を上回ったことです。「鬼滅の刃」のヒットが影響しています。また、外出自粛とはいえ、高品質の食料品を購入したいという層が堅調であるため、傘下の成城石井も好調を維持したそうです。

基幹事業であるコンビニ以外の事業でダメージを抑えました。これは経営戦略上のポートフォリオの成果といえるでしょう。

一方で、基幹事業であるコンビニ事業が苦戦しているのは見過ごせません。もちろんコロナという不測の事態が発生したことによる不可抗力という見方もできます。しかし同業のセブンイレブンジャパンに比べて、既存店舗の前期比減少幅はローソンの方が大きくなっているようです。コロナの外出自粛は、食料品や日用品を展開する小売店にとって必ずしもマイナスではありません。実際に食品スーパーマーケットは堅調に推移しています。

セブンイレブンのコンビニ事業は、食品スーパー事業を少しでも取り入れているため、ダメージを小さくできていると推察されます。このローソンとセブンイレブンのコロナ禍における既存店の売上減少幅の違いについて、経営戦略の基本的なフレームワークの一つSWOT分析で考えてみましょう。

SWOT分析は、経営の方向性を考えるためのフレームワークです。企業や事業を取り巻く環境を「Strength:強み」、「Weeknesses:弱み」、 「Opportunity:機会」、「Treats:脅威」の四つに整理し、それぞれの掛け合わせで方向性を検討します。検討の切り口は下記の通りです。

●強みと機会の掛け合わせは、積極的な攻撃で機会を活かす
●強みと脅威の掛け合わせは、強みを生かした差別化で脅威を回避する
●弱みと機会の掛け合わせは、弱みを克服する段階的な施策で機会を生かす
●弱みと脅威の掛け合わせは、防衛や撤退を検討する

外部環境である機会や脅威は、一社でコントロールできないものとみなされます。従って、方針を考える時は、コントロールができない機会や脅威に対して、強みや弱みをどう活用するかという視点で検討されます。セブンイレブンとローソンの違いは、まさに機会や脅威に対する強みの活かし方の違いにあります。

コンビニにとって、コロナに関係なく機会としてシニア層人口の拡大がありました。また脅威としては E コマースの進展によるインターネット販売が挙げられます。この機会や脅威に対して、ローソンはハウスカードである Ponta カード会員を拡大することによる囲い込みや、カードデータの分析による品揃えやプロモーションの柔軟性、あるいは成城石井などとのコラボレーションによる品揃えの特徴化によって対応してこようとしたように思えます。総じてマーケティング戦略の工夫が見られます。

一方で、セブンイレブンはレイアウト変更による冷凍食品の拡大や日用品の拡大、日用品の値下げ、ファーストフードと言われるレジ上のフィンガーフードの拡大などで対応しようとしてきたことが伺えます。セブンイレブンの取り組みはコンビニにミニスーパーの要素を取り入れた印象になります。つまりビジネスモデル自体の転換を図ったように思います。

結果論になりますが、コロナによる外出自粛において、ミニスーパーの要素を取り入れていたセブンイレブンの方がダメージが少なかったと言えるのではないでしょうか。もちろん、コロナについてはどのような経営者でもことが起きる前に予測することはできなかったでしょう。ただ、セブンイレブンのレイアウト変更などは大きな支出を伴い、かつ、そのレイアウトが消費者に受け入れられない可能性もありました。当時、客観的に見て堅調に推移していたセブンイレブンですが、戦略の観点から大きなリスクを取って方向転換を試みたということになります。

私見になりますが、シニア層の拡大や E コマースの進展などの外部環境を鑑みた時に、コンビニの本当の強みは何かという原点に戻り、ワンストップショッピングの利便性を追求する姿勢が原動力になったのではないかと推察します。一方で、ローソンの強みであるハウスカードデータは、データに基づく品揃えやプロモーションというマーケティング戦略レベルでは活用されていましたが、それを使ってどのように機会や脅威に対応していくのかという観点で掘り下げられていなかったように思います。

近年の経営戦略の主流はリソースベースドビュー。自社が有する基礎的な資源を生かして戦略を描いていくことにあります。ローソンにとってユナイテッドシネマや、成城石井も貴重な資源と言えますが、やはりコンビニ事業が一番の経営資源と言えるでしょう。

ローソンがコンビニの強みが何であるかを再検討し、それを生かした環境適応を考え、ビジネスモデルの再構築を図れば、セブンイレブンとは一線を画す革新的な小売店が誕生するかもしれません。これまでもナチュラルローソンやローソン100など様々な業態に挑戦してきた当社の、今後の動きに注目したいと思います。

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岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

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