【ビットスター】アパレル企業を買収した目的は?

話題のニュースを「成長戦略の多角化」から読み解く

マーケティング支援のビットスターがアパレル企業の買収を発表しました。買収する企業は、ファンとジョイントレーベル。両者は20代から30代の女性を対象にセレクトショップが他のブランドを展開しています。ビットスターのビジネスは、いわゆるインフルエンサー活用です。約200組の YouTube で活躍するインフルエンサーが所属し、インフルエンサーが出演する広告やイベントを通してマーケティングを支援しています。

一方で、ファンとジョイントレーベルは、服飾をインターネットを通して販売する、いわゆるD 2 C(Direct to consumer)型のビジネスを展開しています。Instagram などに多数のフォロワーを抱え、SNS での反応を見ながら多彩な商品を販売することが得意です。

今回は、ビットスターによる2社の買収について、成長戦略の多角化の視点から考えます。

成長戦略を立案するときに、今でもよく活用される理論と言えば、経営論学者のアンゾフが提唱した成長ベクトルです。これは、製品と市場の視点から成長の方向性を、次の四つに分類しているモデルです。

●既存市場✕既存製品=市場浸透戦略
●既存市場✕新規製品=製品開発戦略
●新規市場✕既存製品=市場開拓戦略
●新規市場✕新規製品=多角化戦略

企業の成長の方向性を考えるときに、これらの切り口で発想することで、様々な戦略の選択肢を検討することが可能になります。

今回のビットスターによるアパレルの D 2 C 企業の買収は、どこに該当するでしょうか。

ビットスターにとって、既存の市場は B to B 。つまり企業ということになります。一方で、ファンとジョイントレーベルの市場はto C。消費者です。従って、新規市場に進出することになります。一方で、既存製品がインフルエンサーによる広告やイベントなのに対し服飾は、言うまでもなく新規市場です。つまり、新規市場に対して新規製品を投入することから、今回の買収は多角化戦略に該当します。

この4つの戦略の中で、最もリスクが大きいのは多角化戦略でしょう。果たしてビットスターの買収は成功するのでしょうか。

それを紐解く鍵がアンゾフの多角化戦略の分類にあります。アンゾフは、多角化戦略についてさらに四つに分けて論じています。

一つ目は水平型多角化です。これは、現在の顧客と同じタイプの顧客を対象にして、新しい製品を投入する多角化です。かつてホンダが2輪車事業から4輪車事業へと展開したことはまさに水平型多角化と言えるでしょう。

二つ目は垂直型多角化です。現在の製品のサプライチェーンにおける川上や川下に展開する多角化です。グリコが直営店を展開し、直接消費者にアプローチしている取り組みが該当します。

三つ目は集中型多角化です。これは現在展開している製品とマーケティングや技術と関連がある新製品を、新たな市場に投入する多角化です。富士フィルムがフィルム技術を活かして化粧品市場に参入したことが有名です。

四つ目は集成型多角化です。現在の製品と市場の両方にほとんど関連が無い中で、新製品を新たな市場に投入する多角化です。ダスキンがミスタードーナツを展開している多角化はこちらに該当するでしょうか。

この中でやはりリスクが高そうなのは集成型多角化です。同じ多角化戦略でも、相対的にリスクが少なそうなのは水平型や垂直型、集中型でしょう。

今回のビットスターの取り組みはどの多角化に該当するでしょうか。

まず顧客のタイプは、そもそも企業と消費者という形で異なるため水平型は当てはまりません。また、ビットスターの現在のサプライチェーンに、アパレルがあるわけではないので垂直型も該当しません。ビットスターの強みは、インフルエンサーを生かしたインターネットにおける情報発信力でしょう。一方で、ファンとジョイントレーベルの強みもインターネット上における発信力と言えます。

この点から、集成型よりは集中型に近い多角化と言えそうです。集中型多角化のポイントは、何と言っても自社の強みを新たな事業で差別化の原動力にできるかどうかです。今回のビットスターの買収を成功に導くためには、徹頭徹尾、強みであるインフルエンサーを活かした、20代から30代の女性へのアピールにこだわることが大切と言えるでしょう。ビットスターが、自社の強みを活かしてファンやジョイントレーベルで、どのようなマーケティングを仕掛けるのか、非常に楽しみです。逆風が吹いているアパレル業界ですが、この動きが各社にとって今後のDX戦略を考える上で大きな参考事例になることは間違いないでしょう。


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

講演のご依頼・お問合せはこちら