内部環境の情報収集
ビジネスを「価値連鎖(バリューチェーン)で俯瞰してみる」ということは、ビジネスにおいてとても重要です。それができるようになると、自社の強みや弱みの分析ができるようになり、業界・製品・サービスについて理解を深めることができます。
では早速、事例を通して解説していきます。
今回のテーマは内部環境の情報収集です。
1998年、アパレル業界に革命的な商品が登場しました。ユニクロが発売したフリースです。いわゆるフリースジャケットっていうやつですね。
1999年のフリースの売り上げ枚数は850万枚でした。これでも十分に大ヒットなんですが、2000年には2,600万枚という売上をたたき出しました。
ユニクロのフリースは良質で圧倒的な低価格
ユニクロのフリースは飛躍的に伸びていったということになるのですが、その原動力となったのが圧倒的な低価格だったことです。当時はフリース素材を使った衣料品は高額で5,000円を下回ることはありませんでした。
ユニクロいくらで売り出したと思いますか?
1,900円です。圧倒的な低価格でした。もちろん消費者は喜んだと思うんですけど、誰よりも衝撃受けてたのが業界関係者でした。
私も当時はアパレル業界に携わってましたので、衝撃を受けました。実際にユニクロのフリースは低価格だけではなくて質も高かったんです。このことが、我々の業界人の中で口コミで広がりました。
「低価格で質がいい」
この2つが揃っていたために、フリースが爆発的に大ヒットしたと思います。
ただ、もちろんその時に他の低価格路線を得意としたナショナルブランドと呼ばれるブランドもユニクロに追随して低価格な商品をフリースも含めて売り出しました。
実はこれ、マーケティングや経営戦略の視点で考えると、通常は新規参入事業者よりも既存事業者の方がお客さまの認知が得られているので、同じように追随すれば追いつけると考えるんです。
ところが、どこのブランドもユニクロに追随できなかった。太刀打ちできなかったんです。
なぜ多くの先行していたアパレルブランドはユニクロに太刀打ちできなかったんでしょうか?
5つのステップ:内部環境の情報収集
その疑問を紐解く鍵が、今回のテーマの内部環境の情報収集にあります。
ポーターという経営戦略の学者は、商品やサービスをお客さまに届けて価値を作る活動のことを「価値連鎖(バリューチェーン)」という考え方で整理しています。
この価値連鎖をすべて見ていくと非常に難しい概念なので、今回は簡易的に価値連鎖のポイントだけ抽出してお話ししたいと思います。
お客様に届くまでに必要な事は、
①商品を作るための材料調達
②商品作り
③小売業に商品の出荷
④商品の販売
⑤お客さまへのアフターサービス
この流れが、すべて価値として連鎖し、最終的にお客さまはそのブランドや商品に価値を感じる。このことをバリューチェーン価値連鎖と呼びます。
価値連鎖を分析し長期的な強みを作る
内部環境を考える時には輪切りで考えちゃダメなんですよね。
「うちの接客ってこうだよね」
「うちの商品ってこうだよね」
そうではなくて、価値連鎖でどう繋がってるのかというのを分析することで、長期的な強みを作りやすくなると言われています。
今回なぜ既存のアパレルブランドがユニクロに太刀打ちできなかったのか。それはユニクロが内部環境の価値連鎖をしっかりと仕組みとして作り上げていたのに対して、既存のブランドはそれを連鎖という形で考えていなかったからです。
ではなぜユニクロは、低価格でなおかつ高品質と業界の人にも言われるような商品と価格を実現できたのでしょうか?
品質にこだわったユニクロのバリューチェーン
これは有名な話ですね。中国にいち早く拠点を築いたんです。今までももちろん中国企業と取引してたアパレルブランドもありましたが、中国の工場に結構お任せだったんですよね。
そうすると、当時の中国っていうのはまだ1990年代から2000年代初頭ですから、今ほど成熟してませんので、まだまだ縫製の質とかもそんなに良くないって言われてたんですよ。
そこにユニクロはしっかりと人材を派遣しました。こういうデザインで、こういう品質でやってほしいっていうのを徹底的に向こうの工場とすり合わせていきます。
これが大きかったんですよね。それによって、商品・製品というのが低価格で品質を安定させることができたんです。
つまり今回で言うと、バリューチェーン価値連鎖の最初の部分です。購買物流とか製造に該当する部分をしっかりと見直して人を派遣して強化することで、高品質かつ低価格を実現できるような内部体制を作った。
これが大きかったと考えてください。
単純な値下げは損失になるだけ
他の追随した企業はびっくりしますよね。
「え!?この価格でやっちゃうの??」
「うちも対抗しないと全部持っていかれるよ」
私も当時ユニクロが入ってるビルで、月に3日間ぐらいですかね。私が企画する売り場があったんですが、ユニクロとちょうどバッティングしていました。
TOCという所でしたが、20代から40代の女性をターゲットにした売り場だったんです。
なので一応、対抗しましたよ。1,000円均一でTシャツとか売ってたんです。でも全然売れないのでユニクロを見に行きました。
すると、めちゃくちゃ人がいるんですよ。これ持ってかれたなーって思ってこちらも値下げするんですけど、他の企業は単純な値下げになります。
つまり、商品を販売する部分だけで値下げを考えたんです。バリューチェーンじゃなかったんですね。
ですから、今まで品質がいいものを作り高価格で売っていたところが、ユニクロに対抗するために値下げをしたとします。
しかし、バリューチェーンの最初の購買物流や、製品の部分は高品質で高価格で売る状態のままになってますよね。
ですからその状態で、いくら販売のところで値下げしたとしてもどんどん損が増えていくわけです。だから体力が持たないということになります。
安易な取引先変更は品質を下げるだけ
今度何を考えるかって言うと、
「うちも同じように中国と取引して安いやつを入れよう」
と思いますよね。ところがユニクロと違って、長期的にそこに人材を派遣して、実際にしっかりとすり合わせとかをしてませんので、入ってくる商品は品質がイマイチだったんです。
ですから、低価格だけど品質もそこそこだよね。となってしまったわけですね。
結果として、実際に既存の企業はユニクロに太刀打ちできなかったということになります。
今回の大事なポイントは、価値連鎖(バリューチェーン)という考え方についてでした。
ぜひあなたの自社や事務所について価値連鎖で俯瞰してみてください。
そうすると、自社はどこが強くて、どこが弱いのかが分かるようになると思います。例えば、うちは製品・製造しているところは強いけれども、残念ながら販売が弱いよとかが分かります。
ぜひ、自社や事務所について分析をしてみてください。そうすると、自社や事務所の業界・製品・サービスについて理解を深めるきっかけになると思います。
参考文献
●『競争優位の戦略』M.E.ポーター著(ダイヤモンド社)
●『MBAエッセンシャルズ(第3版)』内田学編著、岩瀬敦智ほか著(東洋経済新報社)
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