【イケア(IKEA)】中古家具の買い取り販売に乗り出す理由

コア・コンピタンス経営から読み解くIKEAの中古家具の買い取り販売

スウェーデン発の「イケア(IKEA)」が、中古家具の買い取り販売を始めました。日本ではイケア港北店に、顧客から買い取った家具や展示品を低価格で販売するサーキュラーハブというコーナーを設置しました。サーキュラーハブでは、家具組み立ての見学コーナーがあったり、商品メンテナンスのワークショップの開催もあるそうです。

記事にもあるとおり、イケアはサスティナビリティ戦略「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」を打ち出しています。その一つの取り組みとして、サーキュラーハブを全世界の店舗に展開する予定です。日本でも、8月までに全店に設置予定とのことです。また、2020年11月には、スウェーデンにおいて全品中古の店舗をオープンしています。

2021年2月27日の日本経済新聞記事「米国で広がる「リテール新陳代謝」変わる実店舗の役割」によると、アパレル大手H&Mの米サステナビリティーマネジャーのA.カンマーゼル氏が、若い世代が求めているニーズについて「洋服がどこで作られているのかを理解し、工場がどうなっているのかという透明性だと思う」と述べています。このように昨今、サスティナブルは間違いなく顧客の関心事でしょう。

一見、イケアもその時流に乗った取り組みを展開しているといえます。しかし、イケアの基幹事業は新品の家具の製造販売です。中古販売に取り組むことは、既存市場を侵食するリスクに直結します。これまでも店内に展示品の中古販売スペースを設けていましたが、小規模でした。ところが、今回の記事の内容からは本格的に取り組む意思が見られます。

なぜ、イケアは新品の販売を基幹事業としながら、それを侵食するリスクがある買い取り品販売コーナーや中古販売専門店を展開するという意思決定をしたのでしょうか?

コアコピンタンス経営

その答えを、今回は、G.ハメルとC.プラハラードが提唱したコアコピンタンス経営の概念を通して、読み解きたいと思います。

G.ハメルとC.プラハラードは、コア・コンピタンスについて「顧客に対して、他社には真似できない自社固有の価値を提供する、企業の中核的な技術やスキルの束」と定義しています。いわば、競合他社に対して圧倒的に勝っていて、その企業で長きにわたって蓄積され、新規事業や、新製品開発の成否に影響を与えてきた固有の技術や知的財産のことと言えます。G.ハメルらは、コア・コンピタンス経営の主眼として、コア・コンピタンスをレバレッジとすることによって、未来を切り拓く点に置いています。

イケアが持つ「真のホームファニッシング能力」

それでは、イケアのコア・コンピタンスは何でしょうか。かつての同社CEOであるA.ダルヴィッグの著書「IKEAモデル」の中にヒントを見出すことができます。同書の中で、A.ダルヴィッグは、イケアの使命を「より快適な毎日を、より多くの方々に提供するために、デザイン性が高く機能的な幅広い家具、インテリア製品を大多数の人が購入できる低価格で提供する」ことと述べています。これは、他社にはまねできないイケア固有の価値といえるでしょう。

その価値の源泉たる中核的な技術やスキルは何でしょうか。同書の中で、文字通り「イケアが競争相手のかなり先をいっている」と表現されている強みに「ルームセットという形で家具の魅力的な組み合わせ方を紹介している」ことを挙げています。その上で、「このサービスを実現するには真のホームファニッシング能力が必要になるため、真似をするのは難しい」と表現していることから、「真のホームファニッシング能力」をコア・コンピタンスの一つと捉えていることは間違いないのではないでしょうか。

「イケアが、買い取り品販売コーナーや中古販売専門店を展開するという意思決定ができたのか」については、様々な経営判断が重なっていると推察されます。その背景には、コア・コンピタンスをテコとして新たな未来を切り開こうとする戦略があるのではないでしょうか。

イケアが、自身のコア・コンピタンスを低価格でデザイン性・機能性が高い家具を提供するサプライチェーンのみと捉えていたなら、そこから生まれた製品とカニバリゼーションを起こす可能性があるこの分野への取り組みを躊躇したかもしれません。

自社のコア・コンピタンスを見据え産業の未来を描く

しかし、その強みに加えホームファニッシング能力を最大限生かすことで、新品や中古品という垣根を越えてルームセットを提供することで、従来の需要に加えてサスティナブル需要を取り組むことができる、あるいは従来の需要を増幅できると考えたとすれば、今回踏み切った意思決定は妥当に思えます。

A.ダルヴィッグは、前述の著書の中で、イケアのDNAについて述べたパートで「発展の糸口は顧客の声に耳を傾け顧客から学ぶことであり、手っ取り早く競争相手を真似することではない」と述べています。奇しくも、G.ハメルらは、著書の中で産業の未来をイメージするための必要な経営者の姿勢として、「謙虚にじっくり考えること」「人々のニーズに感情移入すること」を挙げています。これらを照合するとイケアは、まさにコア・コンピタンス経営を体現しており、今回の取り組みも、家具インテリア産業の未来を見据えての施策なのかもしれません。

トレンドや競合他社の新技術に飛びつくのではなく、自社のコア・コンピタンスを見据えたうえで産業の未来をイメージしましょう。言うは易し行うは難しですが、このように不透明な時代にこそ、経営必要な発想ではないでしょうか。

おススメの記事はこちら↓
【イケア(IKEA)】SDGsを意識したサーキュラーハブは長続きするのか?
「コーズリレーテッドマーケティング」の視点で考察した記事です。併せてチェックしてみてください。

【参考文献】
●WWD Webサイト「「イケア」が中古家具を販売 買い取り品や展示品を手頃に」2021年2月11日

「イケア」が中古家具を販売 買い取り品や展示品を手頃に


●日本経済新聞 Webサイト「米国で広がる「リテール新陳代謝」 変わる実店舗の役割」2021年2月27日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK155L80V10C21A2000000/
●ゲーリー・ハメル&C.K.プラハラード「コア・コンピタンス経営」日本経済新聞社
●アンダッシュ・ダルヴィッグ「IKEAモデル なぜ世界に進出できたのか」集英社
●竹永亮、岩瀬敦智他「速修テキスト〈3〉企業経営理論〈2021年版〉 (TBC中小企業診断士試験シリーズ) 」早稲田出版

 

 

 


岩瀬敦智(Iwase Atsutomo)

経営コンサルタント。株式会社コンセライズ代表取締役。企業の価値を整理し、社内外にPRするコンサルティングを専門としている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。

講演のご依頼・お問合せはこちら